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紛争後の土地・不動産問題—国家建設と経済発展の視点から

暴力的紛争を経験した国では、脆弱なガバナンス、難民・国内避難民・帰還民の流出入、恣意的な政策などにより、人々の生活に直結する土地などの不動産をめぐる紛争が特に起こりやすい状況があります。このため、土地・不動産問題の適切な解決・管理は、人々の生活を安定させ、国民の目から見た国家の正当性を確保するために、また包摂的な経済発展によって国民の生活を向上させるために重要です。

そこで本研究では、紛争影響国における土地・不動産問題の実態と当該国政府や国際社会の対応を分析すると共に、特に長期的な平和構築の観点から何が必要なのかを明らかにしようと試みました。比較事例分析として、南スーダン、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コロンビア、カンボジア、東ティモールの8カ国を取り上げ、実施にあたっては7カ国14名の研究者が参加しました。JICA研究所からは、序章とルワンダおよびブルンジの事例分析(共著)を執筆した武内進一客員研究員(当時)のほか、片柳真理主任研究員、室谷龍太郎研究員(いずれも当時)が、それぞれボスニア・ヘルツェゴビナとカンボジアの事例分析を担当しました。

その結果、以下5点の政策提言が得られました。
1. 紛争影響国における土地・不動産の問題は、人々の生活に直結し、人々から見た国家の正当性に影響を与える重要な課題と認識されるべきである。
2. 紛争直後は、帰還民への土地・家屋の返還に注目が集まる傾向にあるが、紛争前の状態を回復することがどのような状況でも最善の策とは限らず、条件に応じて様々な方策を検討すべきである。
3. 紛争によって混乱した状況に対応するためには、紛争解決メカニズムの強化、とりわけ調停制度の活用が求められる。
4. 土地問題については、関係する行政や司法を含めた包括的なガバナンスの強化を検討するとともに、民間企業の投資が住民に悪影響を与えないような制度作りを検討する必要がある。
5. 紛争後の土地問題を議論しているのは人道援助関係者が中心で、開発援助関係者との間に依然としてギャップが見られる。開発援助関係者が紛争終結後の早い段階から議論に関与し、平和構築・開発支援に土地ガバナンス向上という視点を組み込むことが重要である。

これら提言の詳細はポリシーブリーフとしてまとめられています。また研究成果全体は、武内進一客員研究員(当時)の編集による書籍「Confronting Land and Property Problems for Peace」として、2014年に英国のラウトレッジ社より刊行されたほか、セミナー等でも活用されました。詳細は研究成果一覧を参照ください。