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国際ボランティアが途上国にもたらす変化とグローバル市民社会の形成

近年、貧困の削減、感染症対策、難民受け入れ、環境対策など、いわゆるグローバル・イシューが深刻な世界的課題となっているが、これらの諸問題に国家や市場が充分に対処できていないことを背景に、開発分野の研究者や実務家の間では国際ボランティア活動(International Volunteer Service. 以下IVS)の問題解決の潜在力に注目が集まっている。

このIVS については、従来、実務面と学術面の両方から研究が行われてきた。実務面では、国連ボランティア計画(UNV)、英国のVSO、米国の平和部隊(Peace Corps)、日本青年海外協力隊(協力隊)など、IVS に従事する諸団体の報告書が活動の評価や分析を行ってきた。学術面では、IVS の動向を論じる研究(A.M. Mc Bride & M. Sherraden, eds. Civic service worldwide, ME Sharpe, 2007; 内海成治・中村安秀編『国際ボランティア論』ナカニシヤ出版、2011 年)のほか、国際ボランティアの動機を探った心理学研究(W. Rehberg. “Altruistic Individualists: Motivations for International Volunteering...,”Voluntas, 16(2), 2005)や、個々のボランティア団体の歴史研究が多かった。これに対して最近、研究者やIVS 団体から、ボランティアが活動地域に変化をもたらすことに注目し、その変化の中身やプロセスを分析しようという動きが現れている(UNV, State of the World’s Volunteerism Report, 2015; IDS Bulletin 46(5), 2015 特集号)。さらに、IVS が現地にもたらすインパクトを質的または量的に評価、測定しようという試みもある。

以上の研究は、IVS が途上国の開発問題および国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献しうることを論じる点で重要であり、今後のIVS 研究の地平を切り開こうとするものである。しかし、いまだ問題点は少なくない。まず、ボランティアがもたらす変化がどのようなものなのかという問題については、人々の間の関係性やガバナンスなどが、その対象として研究されているが、様々なアプローチが模索されている段階である。そのため、質的であれ量的であれ、その変化を適切な概念で捉え、変化の実態を評価するには至っていない。次に、それらの研究対象は欧米のIVSがほとんどで、アジアの事例は稀である。しかし、日本だけでなく韓国、タイ、シンガポールでもIVS が活発化している現状に鑑みれば、アジアに関する研究の必要性は高まっている。

本研究は、こうした問題点を踏まえ、日本の協力隊を事例に取り上げて、ボランティアが現地にもたらす変化を考察する。協力隊は日本政府(国際協力機構[JICA])が実施する国際ボランティア事業であり、1965 年の創設以来、4 万人を超える青年(20−39 歳)を途上国に2年間派遣し、各国の経済社会開発に貢献してきた。それは、規模、多様な活動分野、歴史から見てアジアを代表するIVSであり、また豊富な事例、資料、データの存在は、本研究の対象として相応しい。また、本研究では、2011年度から2015年度に研究所で実施した「青年海外協力隊の学際的研究」プロジェクトにおいて充分解明できなかった問題に取り組むことで、従来の研究成果を発展させていく。

研究領域
開発協力戦略
研究期間
2016年12月15日 から 2024年03月31日
主査
岡部 恭宜
JICA緒方研究所所属の研究者
細野 昭雄、 大貫 真友子

研究成果(出版物)