【開発インパクトの測り方コラムシリーズ第1回】ケニアの農林業ファーマー・フィールド・スクール(FFS)への参加は、農家の気候変動影響へのレジリエンスを高めたか?
2026.02.06
全4回の本コラムシリーズでは、「開発インパクト」を学術的にどのように測るかを紹介します。農業、教育、保健、インフラの分野を例に、多様な研究手法を取り上げながら、国際的な学術水準に基づくエビデンスが政策や事業の改善にどのように役立つのかについて考えていきます。今回は、研究プロジェクト「気候変動レジリエンス強化を目的とした自然資源管理における活動アプローチの方法論化 」について取り上げます。
(c)Hideyuki Kubo
ケニアの国土の大部分は雨が少ない乾燥・半乾燥地域で、そこでは近年、気候変動の影響が疑われる干ばつの深刻化などで、農家の生活が脅かされています。JICAは、ケニア政府と協力して2016年から2021年まで実施した「持続的森林管理のための能力開発プロジェクト 」の活動の一環として、「農林業ファーマー・フィールド・スクール(Farmer Filed School: FFS )」というプログラムを実施しました。
このプログラムは、農家の人たちが農地で実際に作業をしながら、植林や作物栽培、苗畑管理などを学ぶ参加型の教室です。農業普及員などが一方的に知識や技術を教えるのではなく、参加者自身が観察し、実験し、グループで話し合いながら学んでいきます。この農林業FFSプログラムは、乾燥・半乾燥地域での林業普及活動を通じた植林・育林推進の能力強化を目的としたものでしたが、この研究ではプログラムが参加農家の気候変動影響に対するレジリエンスにどのような効果をもたらしたのかを分析しました。
FFSに参加した農家は、参加していない農家と比べて、販売して収入を得た農林畜産物の種類が多く、収入源が多様化している傾向が見られました。この生計多様化は、気候変動影響への備えとしても重要で、販売した生産物の種類が多い農家ほど、干ばつや作物の病虫害による経済的な損失が少ない傾向にあることが分かりました。干ばつや病虫害などで、仮にひとつの作物がダメになっても、他の作物や収入源でカバーできる「経済的なクッション」が生まれたことが推測されます。
林業についても違いが見られました。木の苗を育てる苗畑を運営し、地元市場での木材価格を定期的にチェックするなどして、商売として植林・育林に取り組む農家の割合が、FFSに参加した農家の方が大きいことが分かりました。プログラム終了から数年経っても、参加者の大多数がグループ活動を続けており、その中には、お金を貸し借りする仕組みを作って新しい仕事を始めるグループが現れるなど、プログラムを通じて支援を受けた活動の枠を超えて取組みが発展する事例も見られました。
また、2つの調査対象地域のひとつでは、家庭内で女性が農林畜産活動に関わる意思決定に関与している割合が、FFS参加世帯の方に多い傾向が見られ、関係者の話によると、その背景には苗畑管理の担い手は女性が多く、苗畑管理への参画を通じて、農地での生産活動への女性の発言力が増している可能性が示唆されました。
一方で、プログラムの限界も明らかになりました。FFSに参加した農家と参加していない農家の間で、干ばつや作物の病虫害による被害額に大きな違いは見られませんでした。調査対象地域のひとつで、3年連続で深刻な干ばつが発生した地域では、多くの作物や家畜が失われました。このような極端なショックに対しては、学習や生計の多様化だけでは不十分でした。また、木や作物を育てるには水が必要ですが、FFSプログラムでは水の確保方法について十分に扱われておらず、水不足という根本的な問題は解決できていませんでした。
農家による育林活動
この研究では、FFSプログラムの効果をより正確に推計するために、「傾向スコアマッチング」という統計的な方法を使いました。農林業プログラムには、例えば、もともと熱心で能力の高い人が参加しやすい可能性があるなど、参加したグループとそうでないグループをそのまま比較すると、グループの性質の違いによる効果とプログラム参加による効果が混在してしまい、プログラム参加による効果が正しく推計できない可能性があります。そこで、世帯主の年齢、性別、教育水準、持っている土地の広さなど、様々な条件が似ている世帯同士をマッチングしてから比較することで、プログラム参加の効果を比較しやすくして分析しました。
調査では、約350世帯を個別訪問して質問票に基づく聞取りを行った他、10~20人の参加者に集まってもらっていくつかのテーマについて掘り下げて話し合うグループ・ディスカッションも行い、実際の体験や工夫を聞き取りました。また、プログラム終了後2年から3年後に調査を行ったことで、一時的な効果ではなく、本当に農家に根付いた変化を分析できました。
※本稿は著者個人の見解を表したもので、JICA、またはJICA緒方研究所の見解を示すものではありません。
■プロフィール
佐藤 一朗(さとう いちろう)
JICA緒方貞子平和開発研究所上席研究員。1997年に国際協力事業団(当時)に入団。メキシコ事務所、ブラジル事務所、防災グループ、気候変動対策室などを経て、2022年より現職。2018~2020年にWorld Resources Instituteに出向。
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
scroll