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【研究の最前線を知る vol. 1】「気候変動避難民の『もっとも脆弱な層』の現況と持続可能な地域開発への参加とエンパワメントに関する研究」

2026.07.14

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)では、開発を取り巻くさまざまな課題に対し、問いを立てながら研究を進めています。

このシリーズでは、現在進行中の研究を取り上げ、研究者がどのような問いを立て、どのような背景や問題意識から分析を進めているのかを紹介します。今回は、野口扶美子 研究員が実施中の研究プロジェクト「気候変動避難民の『もっとも脆弱な層』の現況と持続可能な地域開発への参加とエンパワメントに関する研究 」について取り上げます。

写真:海は、ツバル人の重要な生活圏。季節ごとに取れる魚、海流、海底の地形、船での移動の仕方などの知恵を持つ

海は、ツバル人の重要な生活圏。季節ごとに取れる魚、海流、海底の地形、船での移動の仕方などの知恵を持つ

どのようなことを問う研究ですか?

この研究では、気候起因の自然災害を理由に他国へ避難する「気候変動避難民」に焦点をあてています。このような国際越境避難民の移住者も、本国に残される人も、それぞれの地域社会の中で『人間の安全保障』の理念が大事にする「尊厳」と「主体性」をもって「エンパワー」しながら生きていけるようにするために、どのような支援が日本に求められているのかを精査しています。

このテーマについて、国際的にはどのような研究や議論がされていますか?

2024年時点で気候起因の自然災害により約4,580万人が避難していますが、2050年にはその移動人口が約2億人規模に達すると予測されています。そしてこの数値に含まれるのは突発性の自然災害による影響を受け公設の避難所に逃げる国内避難民に限られ、海面上昇や気温の上昇、塩害など遅延性の自然災害による影響で都市に移動する季節労働者や、越境避難民、移動不能者は含まれていません。気候変動予測の不確実性もあり、現行の政策的な枠組みの多くは、避難する・しない、方法、時期、家族のうち誰が避難するのかといった複雑で多様な判断メカニズムを考慮することができていない上、避難民たちは法的にも不安定な立場を強いられています。このような中、大洋州地域においては、「気候移動に関する太平洋地域枠組み」をはじめとする政策形成が進んでいます。特にオーストラリアとツバル間で締結された「ファレピリ条約」では、地域単位で気候変動に対するレジリエンスを高め、制度的に人の移動管理を行うことが目的とされています。

今、この研究に取り組むことにどのような意義がありますか?

この研究では、ファレピリ連合条約のもと、ツバルからの移住者と、ツバルに残る人を対象に、移住による地域レジリエンスへの影響とエンパワメントにどのような関係性があるか調査しています。中でも、ツバル人が周囲の自然環境や地域社会と関わる中で育んできた在来知こそがアイデンティティーとエンパワメントの源であるという観点に立ち、近代的・西洋的なオーストラリアの地域社会での生活環境における移住者の現況と、人口流出・過疎化が進むツバルの地域社会に残る人びとの現況を分析しているところがこの研究のポイントです。

写真:ツバルの集会で見たファテレ(伝統舞踏)。海や海の生物と人の関わりを歌った曲も多い

ツバルの集会で見たファテレ(伝統舞踏)。海や海の生物と人の関わりを歌った曲も多い

この研究の成果は政策や実務にどのようにつながっていくと考えますか?

この研究では、日本の国際協力として、日本の過疎地域における地域振興や災害復興の経験を生かした環境教育・持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development: ESD)による介入の可能性を検討しています。里山里海管理など、人が周囲の自然に関わり合う中から文化や在来知を育んできた日本の地域において過疎化が進んでおり、都市への人口流出や少子化で、地域の自然と調和した暮らしを支える文化の担い手がいなくなっているだけでなく、そうした地域がまた自然災害による影響を大きく受け、復興がますます困難になっています。在来知が文化的アイデンティティーの要であった日本の地域社会が、地域を持続可能に維持できなくなっている状況やそのような文化的アイデンティティーを失うことが個人のエンパワメントに影響している点など、日本の地域社会が現在直面する課題と、ツバルの地域社会が直面している課題には、多くの共通点があります。先進国・開発途上国という関係性を超えて、近代化や都市化の中で課題に直面している地域同士が学びあうことで、持続可能な開発への新たな道筋が生まれるのではないでしょうか。特に、学び、エンパワメントという観点から、環境教育やESDの果たせる役割があり、支援者や当事者の能力強化に向けた教材・研修プログラム開発には可能性があると考えています。

日本の過疎地域の取り組みについてはこちら↓

この研究の今後の展望について教えてください。

2025年度、一年をかけて、ツバルおよび、フィジー オーストラリアにおけるツバル人コミュニティーで調査 を行い、彼らの文化的アイデンティティーと周囲の海を中心とした自然環境、地域コミュニティーが一体のものであると確信しました。今後は、社会包摂性と気候の安全保障の2点に焦点を絞って調査を進めていきたいと考えています。社会包摂性に関しては、在来知を持続可能な地域づくりに統合するために、受入国・送出国の両方においてどのようなエンパワメント・能力強化が必要なのかを、環境教育やESDの観点から検討をしたいと思っています。気候の安全保障に関しては、気候移民の文化的アイデンティティーの保持の状況が、どう安全保障上の課題と関連するのか、現行の国際・域内政策とどう連動するのかについての調査を進める予定です。

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