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アジアの社会インフラにはどれだけの投資が必要か?ウェビナー「Addressing Social Infrastructure Needs in Asia」開催

2026.03.27

2025年12月9日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、インドネシア大学経済社会研究所との共催で、ウェビナー「Addressing Social Infrastructure Needs in Asia 」を開催しました。教育、医療、公共住宅といった社会インフラの主要セクターが議論で取り上げられ、予測されるニーズと現状の支出のギャップを埋める政策的な対応について検討しました。

冒頭にあいさつしたJICA緒方研究所の桂井太郎 主任研究員は、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「アジアのインフラ需要推計にかかる研究 」の成果として2025年8月に刊行された報告書「Addressing Social Infrastructure Needs in Asia: Towards a Pandemic Resilient Society 」を紹介し、同報告書がアジアでの社会インフラ投資ニーズを推計する初の試みだったことを強調しました。

社会経済開発におけるインフラ需要を理解する

同研究プロジェクトの主査を務めた広田幸紀氏(元JICA緒方研究所客員研究員)は、学校、病院、公共住宅、公共庁舎に焦点を当て、社会経済開発に伴う社会インフラの将来需要はどのように推計されるかを検討することが同研究プロジェクトの目的だったと説明。研究の方法論としては、インフラのストック(これまでの投資を通じて蓄積された資産の総量)を中核的な変数として用い、維持管理、更新、修繕のコストも考慮しつつ、トップダウンのマクロ推計とボトムアップのミクロ推計を組み合わせたと述べました。

日本、インドネシア、タイで事例研究を実施した後、推計範囲をアジア45ヵ国に拡大した経緯に触れつつ、広田氏は、同研究プロジェクトの成果の強みとして、これまでこうした地域の将来需要の推計が行われていなかったセクターを対象としたこと、既存のインフラのストックを維持するための各種のコストを考慮したこと、技術進歩にも関連するパンデミック対応のシナリオも併せて検討したことなどを挙げました。その一方で、人間開発の要素やセクターおよび国固有の制度的枠組みの違いの反映が難しいことなど、推計の限界についても言及しました。

写真:研究プロジェクト「アジアのインフラ需要推計にかかる研究」の主査を務めた広田幸紀氏

研究プロジェクト「アジアのインフラ需要推計にかかる研究」の主査を務めた広田幸紀氏

見えてきたASEAN諸国の地域間格差とパンデミックへの脆弱性

インドネシア大学経済経営学部経済社会研究所のテグー・ダルタント 准教授(JICA緒方研究所客員研究員)は、ASEAN諸国の社会インフラに対するニーズの規模と分布に関する研究結果を発表しました。学校、病院、公共住宅、政府庁舎は、経済インフラと同様に開発の基礎となるものだと主張し、医療施設へのアクセスの不平等、急成長中の大都市における深刻な住宅不足、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって露呈した脆弱性など、地域間で大きな格差があることを指摘しました。

こうした状況はマクロ推計とミクロ分析のアプローチを組み合わせた同研究によって判明したとし、それによると、社会インフラの年間ニーズは地域のGDPの約5〜6%に達しており、その中でも公共住宅や医療施設、既存インフラの更新・修繕費用が大きな割合を占めることを示しました。ダルタント准教授は、社会インフラの需要と供給の間に存在する年間1.3~1.4兆米ドルの投資ギャップを解消することが、不平等の軽減、レジリエンス強化、今後のアジアの持続的発展の実現に不可欠だという結論を示しました。

写真:インドネシア大学経済経営学部経済社会研究所のテグー・ダルタント准教授

インドネシア大学経済経営学部経済社会研究所のテグー・ダルタント准教授

アジアの社会インフラ投資ギャップを埋めるための政策の選択肢とは

JICA緒方研究所の石塚史暁 主任研究員は、アジアの社会インフラ投資ギャップを埋めるための政策の選択肢に焦点を当て、大きく以下の4つのカテゴリーに分けて対策を概説しました。

1) 税制改革、支出の優先順位の見直し、適切な借入による財政基盤の強化
2) 規制改革、インセンティブ、官民パートナーシップを通じた民間資金の動員
3) 施設使用料や土地の利活用を含む総合的な資金調達アプローチの推進
4) 投資効率とライフサイクル計画の改善

また、石塚主任研究員は、社会インフラが経済インフラとは異なる点として、1)使用料などによるコスト回収が多くの場合で限られている、2)学校や病院での効果的なサービス提供には、物的資産だけでなく教師や医療従事者といった人材への継続的な投資が必要となる、という2点を指摘しました。

最後に、柔軟性の高い多目的施設、適切な技術、長期的な資産管理を通じて社会のニーズを満たし、サービスの質を維持しながらコストを削減する「省インフラ」という概念を紹介しながら、インフラの効率性とライフサイクル計画の重要性を強調しました。

写真:JICA緒方研究所の石塚史暁主任研究員

JICA緒方研究所の石塚史暁主任研究員

社会インフラの推計によって経済インフラ研究を補完する

続いて、JICA緒方研究所の亀井温子 副所長がモデレーターを務めたパネルディスカッションが行われました。

アジア開発銀行(Asian Development Bank: ADB)経済研究・開発インパクト局経済分析・業務支援部の主席エコノミストを務めるイー・ジャン 氏は、本研究がアジアの社会インフラに焦点を当てることで、地域インフラ分析における大きなギャップを埋めていると評価。過去のADBの報告書では経済インフラに重点が置かれていたのに対し、本研究では2030年までの社会インフラニーズと現在の支出(特に公共住宅への大規模投資の必要性など)を見積もることで、それらを補完していると述べました。また、保健医療分野では大きな地域間格差があることを指摘し、その是正のために国際支援の強化が必要だと述べました。

最後に、今後の分析では、社会インフラ投資の経済的リターンを実証し、品質と人的資源の取り扱いをさらに強化することが重要だと強調。また、就学前教育や生涯学習といった新たな教育の需要や、人口動態の変化から生じる需要を取り入れることも提案しました。

写真:アジア開発銀行経済研究・開発影響局経済分析・業務支援部の主席エコノミストを務めるイー・ジャン氏

アジア開発銀行経済研究・開発影響局経済分析・業務支援部の主席エコノミストを務めるイー・ジャン氏

病院への投資をより広範な保健医療制度の強化へ生かす

JICA人間開発部の牧本小枝審議役は、本研究がアジアの社会インフラ需要の地域的推計という初の試みを成し遂げたことを評価し、保健医療分野に焦点を当ててコメント。本研究では、病院への投資、既存インフラの維持管理、パンデミックからの回復力に重点が置かれていることに注目し、保健医療インフラへの深刻な投資不足に陥っている現状と、将来のパンデミックに備える重要性を指摘しました。また、これらの分野は、JICAの課題別戦略である「JICAグローバル・アジェンダ」の保健医療 と、その下位のクラスター事業戦略「保健医療サービス提供強化」での優先テーマだと述べました。

牧本審議役は、このクラスター事業戦略でも強調されているように、保健医療インフラはより広範な保健システムの強化の一環として理解されるべきであり、人材、マネジメント、サプライチェーン、ガバナンスなどとの統合的・継続的な投資が必要だと主張。さらに、病院への投資を、一次医療から三次医療までを網羅した総合的なサービス提供構造の中に位置付ける必要があると強調しました。また、今後の分析では気候変動レジリエンスを組み入れ、社会インフラへの資金調達に対する革新的かつ融和的なアプローチを検討すべきだと述べました。

写真:JICA人間開発部の牧本小枝審議役

JICA人間開発部の牧本小枝審議役

これらの見解を踏まえ、参加者は、投資ギャップを埋める上での国際開発金融機関やJICAの役割について議論し、不平等の軽減のためにデータとエビデンスに基づく政策立案を行う重要性を強調したほか、デジタル化やAIが今後のインフラニーズをどのように方向づけるかについても検討しました。

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