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【天目石慎二郎上席研究員コラム第2回】アフリカの発展と食料安全保障・農業開発:若年層の雇用創出

2024.12.05

JICA緒方貞子平和開発研究所には多様なバックグラウンドを持った研究員や職員が所属し、さまざまなステークホルダーやパートナーと連携して研究を進めています。そこで得られた新たな視点や見解を、コラムシリーズとして随時発信していきます。今回は、アフリカでの農業開発などの研究に関わる天目石慎二郎上席研究員が以下のコラムを執筆しました。

(写真:JICA)

著者:天目石 慎二郎
JICA緒方貞子平和開発研究所 上席研究員

近年「Youth」という言葉をよく耳にするようになりました。SDGs、気候と環境、デジタル化など将来に繋がる多様なイシューに取り組むには若者の活力こそが必要となります。今年9月に国連本部で開催された「未来サミット」では若者がリードするセッションが数多く実施されたのは記憶に新しいところです。未来サミットでは成果文書として「未来のための協定」やその付属文書「将来世代に関する宣言」が採択されました。ここで言う将来世代とはまだ生を受けていない世代を含みますが、Youthのエンパワーメント、ビジネスへの参画への期待が明確に打ち出されました。同宣言では食料・農業に関する言及もあり、最も脆弱な国々としてアフリカ諸国を挙げた上で、将来の世代の基盤の確立に向けた包括的な経済成長と持続可能な開発、食料安全保障、貧困の撲滅の必要性を謳っています。アフリカの食料安全保障・農業開発においても若年層の活躍が必要とされているのです。

アフリカでは人口増加率の高さを背景に人口に占める子どもと若年層の割合が増大する「Youth Bulge」が進行しつつあります。アフリカでは貧困層の3/4が農業に従事していますが(WB 2020)、急激に増加する若年層の多くは農村地域に居住しています。増大する若年労働力に対して適切な政策が策定・実施されれば「人口ボーナス」から大きな経済的利益がもたらされます。一方、的確なかじ取りがなされない場合には経済発展の重荷となります。アフリカでは十分な若年求職者を吸収するのに今後数十年にわたり苦戦するとの警戒感・切迫感も示されています(Mueller et al. 2019)。サブサハラアフリカ(SSA)では11.52億人(2022年)の人口が2050年には20.94億人とほぼ倍増し、その後も増加し続け2100年には世界最大の人口を擁すると予測されています(図1:UN Department of Economic and Social Affairs Population Division 2022)。農村部を中心とする若年労働者が労働市場に多数参入する中で、彼らにとって身近な産業である農業セクターで積極的に吸収し、健全な経済発展に繋げられるかが問われているのです。

図1:地域別の今後人口予測 出典:UN Department of Economic and Social Affairs Population Division. (2022)

図1:地域別の今後人口予測
出典:UN Department of Economic and Social Affairs Population Division. (2022)

しかし、これまでのところ農業セクターにおける雇用の創出に十分な進展は見られません。アフリカ連合(African Union: AU)を中心に推進する「包括的アフリカ農業開発プログラム(Comprehensive Africa Agriculture Development Programme: CAADP)」では、取組の一つとして若年層の農業への就業を掲げていますが、2年置きに実施されるCAADPのレビューの最新の結果(2024年)では、進展を示すスコア(注1)は10点満点中3.62(On trackの基準値は9.00)と計画より大きく遅れています(AU and AUDA-NEPAD 2024)。SSA各国では若年層の農業セクターへの参画に向けて十分な策が講じられてきたとは言い難い状況にあります。

Mueller et al.(2019)はSSA13か国を対象に調査・分析した結果、政策において農村部の若者の関心やニーズが十分考慮されていない、農村部の若者のほとんどはインフォーマル経済で雇用されており労働制度によって保護されていない等、若年求職者の要望に対処できていないことを明らかにしました。また、Geza et al.(2021)はアフリカにおける農業への若者の参画に関する30の文献を分析した結果、既存の農業介入策は生産が中心であり、若者のバリューチェーンへの参画の少なさなどの構造的な問題に適切に対処しておらず若者のダイナミズムに応えていないこと、今後はバリューチェーン・食料システム(注2)に関する取組を推進する政策を導入し、若者の活躍の場を広げていくことの必要性を指摘しています。

国レベルで見ていくと、ケニアでは政府による政策や投資は期待されたほど若者の農業部門への流入を生み出しておらず、農業志向の若者を引き込むための一層の介入戦略の政策やサービスが必要であること(Musundi et al. 2021)、専業農家を希望する若者はほとんどおらず、若者が農業生産以外を生計の柱とする複合的な生計(例えば、農業で得た資金をビジネスへの投資資金に充てる、またはその逆)が成り立つよう総合的な農業政策アプローチが必要であること(Larue et al. 2021)が指摘されています。また、ナイジェリアでは農村部の若者の農業生産への関与を低下させる要因として、経済的要因(不十分な与信枠、低い農業利益率、農業保険、初期資本、農業用品の不足)が最も大きく、他に社会的要因(農業に対する世間一般の認識や、農業から離れようとする親の影響)、環境的要因(土地不足、継続的な収穫量の低迷、土壌の劣化)が存在するとしています(Akpan 2010)。

若者の間では自給自足的な農業への魅力は低く、経済的側面への関心が非常に大きいことから、経済的要因に優先度を置きつつ社会的、環境的要因を含めて制約を軽減・排除し、十分な収益を生み出す農業に転換すること、また農業周辺産業への雇用を拡大し十分な収入を得られるようにするとともに、農村地域の経済活動に刺激を与え、地域の発展や更なる雇用の拡大につなげていくことが求められます。JICAは他の支援機関とともにアフリカでコメ生産倍増を目指す「アフリカ稲作振興のための共同体(Coalition for African Rice Development: CARD) 」を推進していますが、CARDにおいても収穫後ロス低減・品質向上とマーケティング強化、民間セクターとの協調による流通改善バリューチェーン開発に取り組んでいます。これらは農村部における若年層の雇用創出・収入向上に直接貢献するものです。アジアの経験からアグリビジネスにおける零細農家向けの高賃金での雇用の創出が貧困削減に繋がることが明らかになっています(WB 2020)。Luc Christiaensen and Miet Maertens(2022)は、今後の政策ではいかに農業及び食料システム向けの投資を促すかとともに、農村世帯が競争力を持つ非農業産品・サービスに対する需要を生み出すか、そして農村部でより多くの良質な雇用を創出できるかが問われていると指摘しています。

緒方研究所では、2017年にセンテニアル・グループ・インターナショナルとともに今後のアフリカの開発のあり方につき研究してきた成果を書籍「Africa Reset: A New Way Forward 」として発刊しました(和文「アフリカの成長を立て直すー新しいアフリカへの軌跡(2018) 」)。同書籍では、アフリカが直面する唯一にして最大の課題は若い世代にきちんとした雇用を生み出すことであり、それができれば世界の他地域に追いつくことができるとしています。アフリカの強みの一つとして若年労働者の増加を取り上げ、特に長期的な経済成長には貧困層が従事しているセクター、すなわち農業セクターにおける雇用創出の必要性を指摘しています。「開発が成功するか否かを決定づけるのは、大胆な改革を推し進めることに対して政治的指導者たちがどれだけ強い意志を持つかである」とあります。まさにこの問題にアフリカ各国及びそれを後押しする開発パートナーがどれだけ取り組めるのかにかかっているのです。

(注1)CAADPのレビューでは、項目毎に10を最高値としてスコア化し進展を評価しています。On trackの基準は項目によって異なり、レビュー毎に見直しています。
(注2)食料システム:農業、食品加工、流通、消費、廃棄を起源とする食品の生産、集約、加工、消費、廃棄に関与するあらゆるアクターと、相互に結びついた付加価値活動を包含するものと定義される。持続可能な食料システムへの変革には、経済、社会、環境の3つの視点からの取組が必要となる(FAO 2018)

参考文献

African Union (AU) and African Union Development Agency (AUDA-NEPAD). 2024. 4th CAADP Biennial Review Report 2015-2023.
Akpan, Sunday Brownson. 2010. “Encouraging Youth’s Involvement in Agricultural Production and Processing” IFPRI Nigeria Strategy Support Program. Policy Note No. 2.
Ahlers, Theodore, and Harinder S. Kohli. 2017. Africa reset: a new way forward. Tokyo: Centennial Group International, Japan International Cooperation Agency (JICA), and Oxford University Press.
Christiaensen, Luc and Miet Maertens. 2022. “Rural Employment in Africa: Trends and Challenges” Annual Reviews of Rural Economics. 2022. 14:267–89
Food and Agriculture Organization (FAO). 2018. Sustainable Food Systems Concept and Framework.
Geza, W., Ngidi, M., Ojo, T., Adetoro, A. A., Slotow, R. and Mabhaudhi, T. 2021. “Youth Participation in Agriculture: A Scoping Review” Sustainability. Vol 13. Issue 6.
LaRue, Katie, Thomas Daum, Kai Mausch and Dave Harris. 2021. “Who Wants to Farm? Answers Depend on How You Ask: A Case Study on Youth Aspirations in Kenya” The European Journal of Development Research. Vol 33. Issue 4. pp885-909.
Mueller, Valerie and James Thurlow. 2019. “Youth and Jobs in Rural Africa beyond Stylized Facts” International Food Policy Research Institute (IFPRI) and Oxford University Press.
Musundi, Laban C., Anthony, Wahome K and Elias, Odula B. 2021. “Driving Youth Participation in Agriculture: A Synopsis of the Influence of Existing Agricultural Policies in Selected Counties in Kenya” International Journal of Academic Research in Business and Social Sciences. Vol 11. Issue 9.
United Nations. 2024. Summit of the Future Outcome Documents: Pact for the Future, Global Digital Compact, and Declaration on Future Generations.
UN Department of Economic and Social Affairs Population Division. 2022. World Population Prospects 2022 Summary of Results.
WB. 2020. Agriculture, Jobs and Value Chain in Africa.


※本稿は著者個人の見解を表したもので、JICA、またはJICA緒方研究所の見解を示すものではありません。

■プロフィール
天目石 慎二郎(あまめいし しんじろう)
1994年にJICAに入構し、プロジェクト専門家(ラオス)、国連食糧農業機関(FAO)アジア・太平洋地域事務所、農村開発部、タンザニア事務所、ケニア事務所、経済開発部などを経て、2023年から現職。主な研究領域は、アフリカ農業開発、農業政策、参加型開発、援助協調。

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