jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

【貝塚ジェームズ研究員コラム】ポジショナリティー(立場性)と国家戦略はケニアとルワンダでのABEイニシアティブの成果にどのような影響を与えるのか?

2026.09.02

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)には多様なバックグラウンドを持った研究員や職員が所属し、さまざまなステークホルダーやパートナーと連携して研究を進めています。そこで得られた新たな視点や見解を、コラムシリーズとして随時発信していきます。

今回は、日本の大学での修士号取得と日本企業などでのインターンシップの機会を提供するプログラムであるABEイニシアティブ(正式名称:アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ/African Business Education Initiative for Youth) の成果について、貝塚ジェームズ 研究員が考察します。特に、ケニアとルワンダを事例に挙げ、ABEイニシアティブ修了生(以下、ABE修了生)が日本での経験をどのようにイノベーションや社会的インパクトへと結び付けているのか、そしてその過程において「ポジショナリティー(立場性)」と「国家戦略との整合性」が果たす役割に焦点を当てています。

著者:貝塚ジェームズ研究員 JICA緒方研究所

2026年2月、私はケニアとルワンダで現地調査を行う機会に恵まれました。数週間にわたり、両国で20件を超えるABE修了生や関係者へのインタビューを行いました。今回の研究テーマである「ポジショナリティー」と「国家戦略との整合性」は、前年のインタビュー分析から浮かび上がってきたものであり、ABE修了生による影響や成果がどのように促進あるいは阻害されているのか、この2つの観点から明らかにすることを目的としていました。本コラムでは、現地調査から得た研究成果をご紹介します。

研究の焦点は?

まず、「国家戦略との整合性」と「ポジショナリティー」が何を意味するか説明しましょう。一見すると学術的で難解な用語に見えるかもしれませんが、その意味は案外シンプルです。

まず、「国家戦略との整合性」について説明します。ケニアとルワンダは、ともにABEイニシアティブの主要な対象国です。これまでケニアには約200人、ルワンダには約60人の参加者がいます。しかし、両国の人材育成戦略は対照的です。ケニアでは、多様性を重視したアプローチがとられており、参加者の専攻分野は工学、法学、医学、IT、農業など幅広い領域に及んでいます。一方、ルワンダではITと農業に重点を置き、人材育成分野を戦略的に絞り込んでいます。その結果、両国では大きく異なるABE修了生像が形成されていますが、いずれの戦略も各国の国家戦略に合致しています。ケニアは経済規模が大きく、多様な産業構造を持つ一方、ルワンダはIT分野を国家の将来像の中心に据えています。「国家戦略との整合性」とは、こうした各国の方針がABEイニシアティブの成果にどのような影響を与えているかを指しています。

一方、「ポジショナリティー」は、所属する職場や社会での個人の立場が、その人の影響力にどのように作用するかを意味します。例えば、工学の技術者として訓練を受け、エンジニアリング企業で管理職を務めている人は、自らの専門性を生かしやすく、その提案も受け入れられやすいでしょう。これに対し、同じ工学の技術者であっても、化粧品会社のマーケティング部門で若手の一般社員として働いている場合は、専門知識を活用しにくく、発言力も限定される可能性があります。つまり、組織内での地位や職務との適合性が成果に影響するのです。

では、これらの要因がABE修了生の間で、どの程度、そしてどのような形で違いをもたらしているのでしょうか?ABE修了生たちがこれまでどのような活動をしてきたのか、そして彼らの成功を支えている要因は何なのか見ていきましょう。

ポジショナリティーは意思決定力を生み、国家戦略はポジショナリティーを強化する

「ポジショナリティー」を説明するために、身近な例を挙げてみましょう。例えば、あなたは夕食にスパゲッティーを食べたいと思っていて、パートナーはカレーを食べたいと思っているとします。この場合、あなたの希望が通ることもあれば通らないこともありますが、基本的にはお互いが同じくらいの発言権を持っています。しかし職場の昼食ではどうでしょうか。もし上司が大のラーメン好きなら、あなたはラーメンを食べる機会が増えるかもしれません。つまり、この違いは、誰が意思決定権を握っているかという点にあります。こうした力関係は職場に限らず、社会のあらゆる場面に当てはまるものです。ケニアとルワンダの職場においても、この意思決定権こそが研究の重要なポイントでした。

調査の結果、ポジショナリティーが高いABE修了生ほど大きな成果を挙げていることが明確に確認されました。ポジショナリティーは、一般社員、監督者、マネージャー、部長・役員といった組織内での役職や階層を指す場合もあれば、その人の専門能力と職務内容の適合度を指す場合、個人ネットワークや人的資源をどれだけ効率的に活用できる能力がある場合を指すこともあります。これら全ての側面において、ポジショナリティーと成果との間には強い相関関係が見られました。

ケニアとルワンダで最も一般的だった成果は、日本で学んだ知識や技術を活用し、特に、部下や監督下にある職員を対象とした社内研修や人材育成を行うことでした。私はこうした取り組みを実施した多くのABE修了生にインタビューをしましたが、その中には職場の生産性を大きく向上させた例もありました。例えば、約10人のチームを率いるある技術者は、自身の立場を活用し、日本で得た技術や知識を共有するだけでなく、グループでの振り返りや「今ある資源でできることを考える」という問題解決法の導入といった新しいマネジメント方法も取り入れていたのです。このアプローチは、日本のリーン生産方式にも通じるもので、限られた資源を活用し、できるだけ低コストで高い成果を目指す問題解決手法を重視するものでした。

写真:ケニアの首都ナイロビの街並み。活気に満ちた景観を眺めると、ケニアの急速な発展を実感できる

ケニアの首都ナイロビの街並み。活気に満ちた景観を眺めると、ケニアの急速な発展を実感できる

さらに、キャリアを積み、昇進したABE修了生ほど、より大きな社会的インパクトを生み出していました。ABEイニシアティブ修了から長い年月が経過したABE修了生は、キャリアの進展に伴って昇進し、より高い役職や地位に就いている可能性が高いため、国家レベルの変革にまで影響を及ぼしていたケースもあります。ケニアでは、安全保障分野のABE修了生がテロ対策の中核的役割を担い、日本で行った研究成果を生かしてドローン技術を活用した国境警備の強化に貢献していました。またルワンダでは、日本でロボティクスを学んだABE修了生が教育用ロボティクスのカリキュラムを開発し、現在では26校で試験的に導入され、国家レベルの関心を集めています(このルワンダのABE修了生、ガブリエル・バジラムワボ氏のケースについては、こちら のケーススタディをご覧ください)。

本調査結果によると、国家戦略は一種の「力の増幅装置」として機能していることを示しています。すなわち、国家戦略による重点分野への戦略的な集中によって、より多くの雇用機会や投資、高い社会的評価といった機会が生まれ、その結果、ABE修了生はより速いペースで自身のポジショナリティーを高めることができるのです。ルワンダのIT分野では、この傾向が非常に顕著に見られました。前述した教育用ロボティクスの事例や、以前のコラム で取り上げたムガルラ・アミリ氏の事例 がその典型です。一方、ケニアでは多様な産業分野に大きな成長の可能性があり、ABE修了生もさまざまな産業に携わっているため、キャリアを積んで意思決定権が拡大するとともに多方面で広く貢献する可能性があります。実際、何人かのABE修了生は組織の最高レベルまで昇進したいという強い意欲を示しており、ABE修了生のある行政官は「将来は事務次官になりたい」と語っていました。国家戦略は、ABE修了生の能力を発揮する機会を提供することで、個人のポジショナリティー強化を後押ししているのです。

写真:ルワンダの首都キガリの街並み。緑豊かで、なだらかな丘陵地帯に囲まれた市街地は、「千の丘の国」と呼ばれる同国ならではの穏やかで落ち着いた雰囲気をたたえている

ルワンダの首都キガリの街並み。緑豊かで、なだらかな丘陵地帯に囲まれた市街地は、「千の丘の国」と呼ばれる同国ならではの穏やかで落ち着いた雰囲気をたたえている

要するに、今回の調査が示しているのは、「優れた人材マネジメントを行う組織は大きな成果を生み出せる」という、ある意味、昔ながらの教訓に集約できます。健全で効果的に運営されている組織であれば当然行うべきことですが、人材の能力と適切な機会を結び付け、優れたアイデアを取り入れる仕組みを整え、さらに昇進や責任の拡大によってそれらを評価することで、ABE修了生は目覚ましい成果を生み出すことができます。「ポジショナリティー」が機能することで、制度や組織全体に影響を及ぼすレベルから、日々の業務改善や人材育成のような身近なレベルまで、実にさまざまな変化が生み出されていたのです。

優れた人材マネジメントを通じてABEイニシアティブの潜在力を最大化へ

このコラムでは、研究による発見以外にも取り上げたいことがたくさんあります。ケニアとルワンダはいずれも素晴らしい国であり、両国でお会いしたABE修了生の皆さんには温かく迎えていただきました。この場を借りて、調査へのご協力に心から感謝申し上げます。また、日本との文化的な共通点についても触れたいところです。例えば、ケニアでの「Chicken Inn」と「KFC」のライバル関係は、日本でおなじみの「きのこの山」対「たけのこの里」論争を思い起こさせます。しかし、ここで脱線すると同僚たちから渋い顔をされそうなので、それらはまた別の機会に譲り、本題に戻りましょう。

では、今回の調査からどのような結果が見えてきたのでしょうか。まず明らかだったのは、個人の能力だけが成果を決定するわけではないということです。ABE修了生が置かれた環境によっては、ポジショナリティーや国家戦略との整合性が成果を後押しすることもあれば、逆に制約となることもあります。

人間の安全保障の観点から見ると、これは一人の有能な人材を支援することが、その人を通じて周囲の人々にも力を与えることにつながると示しています。ABE修了生の経験を例にとると、より高い役職に昇進したABE修了生ほど大きなインパクトを生み出しており、その背景には国家戦略との整合によって生まれる機会があることも分かりました。

企業や組織にとって、ここから得られる教訓は、「優れた人材マネジメントは必ず報われる」ということです。ABE修了生を組織内で昇進させ、彼らの持つ独自の能力を積極的に活用し、それを国家目標とも結び付けることで、その能力はより効率的に発揮され、組織全体へと広げることができます。

JICAの立場から見ると、ABE修了生による優れた人材マネジメントの実践事例を広く共有するとともに、帰国したABE修了生に意思決定権を与える重要性を訴えていくことが、このプログラムの長期的な成功にとって極めて重要です。実際に、ケニアとルワンダの両国では、「ポジショナリティー」と「国家戦略との整合性」が相互に作用することで、ときには期待をはるかに上回る成果が生み出されています。ABE修了生は、テロ対策やIT分野といった高度で影響力の大きい領域で重要な貢献を果たしてきました。それだけではなく、日々の業務の中でも、後進への指導や知識・技能の共有といった、地道ながらも重要な実践的な貢献を行っています。こうした成果はいずれも、適切なポジショナリティーがあってこそ初めて可能になるものです。

最後に、改めて次のメッセージを強調して締めくくりたいと思います。ABEイニシアティブの成果は、個人の能力だけで生み出されるわけではありません。組織の在り方や国家戦略との整合性も成果を左右する重要な決定要因です。ABE修了生を受け入れる企業や組織は、彼らを人事戦略や事業計画の中核に位置付けることで、その効果を最大限に引き出すことができます。そして本研究の結果は、そのような取り組みによってABE修了生の生み出すインパクトが組織全体へ広がり、組織に大きな利益をもたらす可能性を強く示しています。

ABEイニシアティブによってまかれた種は、すでに各地に根付き始めています。あとは、その種が成長し、花開くことのできる環境を、雇用者が整える番なのです。

※本コラムにおける意見はすべて著者個人の見解であり、JICAまたはJICA緒方研究所の見解を示すものではありません。

■プロフィール
貝塚 ジェームズ
英国リーズ大学大学院修了。2024年より現職。主な研究関心分野は、JICA留学生制度(ABEイニシアティブ)を中心とした人的資源開発、社会経済開発、ならびに日本とアフリカ諸国との関係構築について。

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ