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アフリカにおける暴力的紛争の予防

紛争予防に関する研究は数多いものの、従来の研究動向は、特定国の政治プロセスやガバナンスの研究か、貧困や不平等を含む要因に着目した計量的な研究かに分かれる傾向がありました。そうしたなか、JICAとUNDPが共催し、福田パー咲子教授(ニュースクール)らがリードした2007年11月のWilton Park共同研究は、紛争予防に対する開発援助の潜在的な役割に注目し、「水平的不平等(Horizontal Inequalities: HIs)」などの紛争の構造的・政策的な要因を幅広く議論する画期的な研究会合でした。

そこで本研究は、この会合の問題意識と成果を引き継ぎながら、同会議では比較的扱いが弱かった<構造>と<プロセス>がリンクして紛争が起きる(ないしは、起きない)メカニズムについて実証研究を行い、その分析結果を集約しました。具体的には、理論的な枠組みの形成と比較事例研究を行い、ルワンダとブルンジ、ガーナとコートジボワール、南アフリカとジンバブエ、ウガンダとタンザニアという隣接する2ヵ国4組、およびケニアとナイジェリアの個々の事例を取り上げました。実施にあたっては、HIs研究の第一人者であるFrances Stewart教授(オックスフォード大学CRISE)、福田パー咲子教授(ニュースクール)、元国連社会開発研究所所長のThandika Mkandawire教授(ロンドンスクールオブエコノミクス)にアドバイザーとして編集および執筆に参加いただいたほか、研究所内外の8名が研究・執筆しました。

その結果、HIsが暴力的紛争にとって重要な要因であり、特に政治/経済/社会という複数の側面で同じ不平等がある場合に深刻なリスクとなること、人々の主観的な認識は客観的なHIsとは必ずしも一致せず、特に政治的に不利な立場に置かれた集団は自らの集団の社会経済的地位を客観的な水準よりも低いと認識しやすいこと、などが判明しました。

また、研究結果のエッセンスを、政策提言も含めたポリシーブリーフとしてまとめました。要点は以下3点です。
1.アフリカにおける暴力的紛争の根本原因の一つである集団間の多次元的な水平的不平等の観点を、アフリカ諸国の開発政策に組み込むべきである
2.客観的な不平等と、人々の主観的な不平等感は必ずしも一致していない事実から、政府関係者、開発実務者は集団間の主観的な不平等意識を強めないよう、政策内容や行動・態度に注意すべきである
3.インクルーシブな制度は、フォーマル、インフォーマルを問わず平和の礎である。外部の関係者は、持続可能なパワーシェアリングと効果的な地方分権を目指す地元のイニシアティブを尊重すべきである

これらの研究成果の詳細は、峯陽一客員研究員とアドバイザー三者の共同編集による書籍「Preventing Violent Conflict in Africa: Inequalities, Perceptions and Institutions」として、2013年に英国のパルグレイブ・マクミラン社より刊行されたほか、シンポジウムや開発課題に関するセミナー等でも活用されました。詳細は研究成果一覧を参照ください。