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世銀・ADB・JICA共催リサーチカンファレンス「Innovation in Infrastructure Impact」で研究成果を発表

2026.04.20



世界銀行の開発インパクト・グループ(Development Impact Group: DIME)は、研究者と事業関係者が協働して、事業におけるエビデンスとデータ分析の活用を推進する取り組みの一環として、世界各地で「LEADS(学習=Learn、適応=Adapt、規模拡大=Scale) 」ワークショップを開催しています。その東京でのワークショップに先立ち、2026年1月26日、世界銀行、アジア開発銀行(Asian Development Bank: ADB)、国際協力機構(JICA)は、世界銀行東京開発ラーニングセンターにて、リサーチカンファレンス「Innovation in Infrastructure Impact 」を共催しました。

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)からは、テグー・ダルタント 客員研究員、テクレハイマノト・ソロモン・ハディス 研究員、佐藤一朗 上席研究員、山田英嗣 主任研究員が登壇したほか、国内外のパートナーが集結し、研究とインフラ整備の連携を深化させる重要な機会となりました。

持続的な開発インパクトに向けた社会インフラと物的インフラの統合

パネルディスカッションでは、インフラ投資の意思決定やその開発へのインパクトが、政治経済的力学やガバナンス・制度面での整合性によってどのように左右されるのか、また社会インフラと物的インフラを統合することがなぜ必要なのか議論されました。

ダルタント客員研究員は、アクセス向上やコネクティビティー(連結性)の強化を人的資本や生産性、福祉の向上につなげるためには、物的インフラを社会インフラで補完する必要があると強調。JICA緒方研究所が2016年に開始した研究プロジェクト「アジアのインフラ需要推計にかかる研究 」を紹介し、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国での社会インフラ(学校、病院、公営住宅、公共庁舎など)のニーズを推計する取り組みを説明しました。この分析では、社会インフラへの投資ニーズの推計にとどまらず、インフラの不足や、既存インフラの維持管理、更新、修繕にかかるコストを含めて検討しており、こうした費用は新規建設よりも重要であることが多いにもかかわらず、政治的なリターンが小さいため、軽視されがちであることを指摘しました。しかし、ダルタント客員研究員は、物的インフラのみでは持続的な福祉向上は実現できないと改めて強調しました。

写真:JICA緒方研究所のテグー・ダルタント客員研究員(写真:世界銀行)

JICA緒方研究所のテグー・ダルタント客員研究員(写真:世界銀行)

目的地の違いは道路の連結性の効果をどう左右するか:タンザニアの事例

テクレハイマノト研究員は、「How Impact Evaluation Illuminates the Benefits of Infrastructure」と題したセッションで、タンザニアの道路の連結性が農村経済にどのような影響を及ぼすかを検証した研究プロジェクト「サブサハラ・アフリカの産業構造転換とインフラ投資・産業政策 」を紹介しました。同研究では、各世帯がどの都市に到達できるのかによって、農村の状況がどのように変わるかに焦点を当てています。具体的には、タンザニアの幹線道路・地域道路のデータ、都市集積情報、タンザニア生活水準測定調査の結果を組み合わせ、連結性の向上が農村の労働力配分、農業生産、商業化にどう影響しているかを調べました。連結性は、主要都市であるダルエスサラームへの道路をもとにした市場アクセス指標と、地方中核都市へのアクセス指標から測定しています。

その結果、“どの都市にアクセスできるか”が重要であることが示されました。ダルエスサラームへのアクセス向上は、農業労働の減少、近代的な投入資材の利用増加、生産性の向上、商業化の拡大(高付加価値作物への転換など)と相関がありました。しかし、目的地が地方の中核都市の場合、サービス部門の小さな増加は見られるものの、農業生産や商業化に対しては効果が弱い、あるいはマイナスの相関が見られました。テクレハイマノト研究員は、これらの結果から、道路整備だけでは地方中核都市の潜在力を十分に引き出すことは難しく、農村開発を支えるためには追加的な補完投資が必要であると強調しました。

写真:JICA緒方研究所のテクレハイマノト・ソロモン・ハディス研究員(写真:世界銀行)

JICA緒方研究所のテクレハイマノト・ソロモン・ハディス研究員(写真:世界銀行)

不確実性下のインフラ計画にRDM手法を適用する

同セッション「How Impact Evaluation Illuminates the Benefits of Infrastructure」に登壇した佐藤上席研究員は、単一の将来予測に頼り、そのシナリオに最適化した計画を立てる従来型のインフラ計画は、不確実性の大きな状況下ではリスクが大きいと説明しました。特に、運用期間が長く、気候条件の影響を受けやすいインフラでは、そのリスクは顕著です。この課題に対処するため、佐藤上席研究員のチームでは「頑健な意思決定(Robust Decision Making: RDM」という手法を分析に用いていることを紹介。RDMは、利用可能な政策オプションをまず洗い出し、その上で不確実性を反映した多数の将来シナリオでストレステストを行い、脆弱性を可視化するものです。こうした検証を繰り返し、どのような将来シナリオが実現しても一定の効果を発揮できる見込みが高い対策を探求することができるとしました。

佐藤上席研究員は、スリランカのコロンボ都市圏における都市洪水対策の事例 を挙げてRDM手法を示しました。湿地の喪失と水田の減少で洪水リスクが高まっている2つの河川流域を対象とし、JICAが支援する雨水排水事業マスタープランで提案された対策について効果シミュレーションを行った結果、簡易な住居で暮らす貧困世帯ほど洪水被害を受けやすい一方、洪水対策の導入により大半の将来シナリオで被害が軽減することや、気候変動に伴う不確実な将来においても、頑健な被害軽減効果が得られることが示されました。佐藤上席研究員は、気候変動適応策の有効性を評価するには体系的なシナリオ分析が不可欠であり、RDMはそれを実践するための実用的枠組みを提供すると結論付けました。

写真:JICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員(写真:世界銀行)

JICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員(写真:世界銀行)

都市大量輸送システムの恩恵を受けるのは誰か?

「Assessing Heterogeneity in the Benefits of Infrastructure」と題するセッションに登壇した山田主任研究員は、バングラデシュの極めて人口密度が高い下位中所得都市での大型都市鉄道投資である「ダッカ大量高速輸送システム(Mass Rapid Transit: MRT)6号線」の社会経済的インパクトについて、世帯パネル調査 の結果を発表。約4,000世帯を2023年初頭から2025年初頭まで追跡したデータを用い、駅への距離を基にした連続的な差の差(Difference-in-difference)手法によって、MRTへのアクセスが移動行動や経済状況に及ぼす影響を分析しました。

山田主任研究員によると、MRT利用者はより長距離をより速く移動しており、総移動費用はバスより高いものの、長距離移動時の1キロメートル当たりの費用は低くなることが示されました。また、男性については駅から2キロ圏内では教育、雇用、所得によるMRT利用の差は見られませんでしたが、女性では低所得者のMRT利用頻度が低く、所得による差が明確に表れています。世帯レベルでは駅への近さが男女両方に雇用拡大を、下位40%の層に大きな所得増をもたらしました。また、若年層においてはニート(NEET:Not in Education, Employment or Training)の減少にも寄与したことが明らかになりました。

写真:JICA緒方研究所の山田英嗣主任研究員(写真:世界銀行)

JICA緒方研究所の山田英嗣主任研究員(写真:世界銀行)

JICA緒方研究所の研究者らは、リサーチカンファレンスの後にメインイベントであるLEADSワークショップにも参加し、議論への貢献や研究から得られた知見の共有によって、エビデンスと実務をつなぐ役割を果たしました。LEADSワークショップの詳細については、以下の記事をご覧ください。

本記事中の研究プロジェクトについては、以下のリンクからご覧いただけます。

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