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コロンビア大学IPDとの共同研究書籍ローンチイベントで開発途上国における仕事の未来を探る

2026.07.07

コロンビア大学政策対話イニシアチブ(Initiative for Policy Dialogue: IPD)とJICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、2026年3月19日、フランス・パリにて公開パネルディスカッションを共催しました。これは、第5次共同研究プロジェクト「Employment:グローバルな産業構造と人口動態の変化が雇用に及ぼす影響 」の成果である書籍「The Future of Work in Developing Countries 」の刊行を記念したものです。

冒頭あいさつを述べたJICA緒方研究所の亀井温子 副所長は、低・中所得国における雇用は現在も最も差し迫った開発課題の一つであり、自動化、AI、グローバルサプライチェーンの変化によってますます複雑化していることを指摘しました。続いて、アジム・プレムジ大学のアルジュン・ジェヤデブ教授がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、世界の急速な変化にあたり、開発途上国が仕事と生計の未来をどのように形づくることができるか議論しました。

雇用を開発政策の中心に位置付ける

ノーベル賞受賞者であり、IPD共同代表を務めるコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ 教授は、ディスカッションの冒頭にて、「東アジアの奇跡」の応用に関する長年のJICA緒方研究所との共同研究を振り返りました。日本、韓国、中国といった国々は驚異的な経済成長を遂げましたが、その成功から得られた教訓を、制度、人的資本の水準、国家の統治能力が大きく異なる地域、特にアフリカにおいてどのように適用できるのかという問いが、過去18年間にわたる研究を貫くテーマであったことを示しました。また、経済学者が過度に重視しているGDPは開発の重要な側面を捉えきれていないことも強調しました。開発途上国において、雇用は主要なセーフティーネットの役割を果たすだけでなく、人々の生活に意味を与え、社会の結束と政治的安定に貢献することから、雇用が何よりも重要だと主張しました。

さらにスティグリッツ教授は、雇用創出をより困難にしているメガトレンドとして、アフリカの急速な人口増加、雇用創出源としての製造業の役割の低下、グローバリゼーションの後退、AIと自動化の労働需要への影響の増大を挙げました。また、新自由主義は「実質的には終焉を迎えた」とし、現在では世界的に産業政策が再び重視されるようになっていると指摘。本書籍では、雇用や外貨収入といった輸出主導型製造業の果実を、複数の産業分野を組み合わせて得るポートフォリオ型の戦略とグリーントランジションに関連する機会を強調していますが、スティグリッツ教授は、現在の経済的・構造的状況は雇用創出の課題を深刻化させており、開発政策の見直しが急務だと警鐘を鳴らしました。

JICAフランス事務所所長を務めるJICA緒方研究所の原田徹也 主席研究員は、アフリカにおける雇用の性質に焦点を当てて発表しました。2000年代から2010年代のアフリカの経済成長は比較的堅調であったものの、労働生産性の向上を伴わない場合が多かったと指摘。また、生活水準の指標となる一人あたりGDPは、労働者一人あたりが生み出す価値に大きく依拠するため、雇用の増加のみに注目するだけでは不十分だと強調しました。部門別分析に基づくと、雇用に占める割合が大きい農業は現在も中心的な役割を担っており、生産性の向上は、労働力が農業から農業以外の産業へ再配分されることによって実現していると示しました。しかし、製造業やサービス業での雇用の増加は大きな生産性向上には結びついておらず、中心的な課題は、単に雇用を創出するだけでなく、生産性の高い雇用を生み出すことにあると主張しました。こうした状況を受け、JICAは「カイゼン」アプローチ を通じて継続的な生産性向上を支援するとともに、ビジネスコンテスト、メンターシップ、資金援助によってアフリカの起業家を支援する「Project NINJA (Next Innovation with Japan)」などの取り組みを通じて、スタートアップ主導の雇用創出を促進していることを紹介しました。

写真:アフリカでの雇用の性質について発表するJICA緒方研究所の原田徹也主席研究員(中央)

アフリカでの雇用の性質について発表するJICA緒方研究所の原田徹也主席研究員(中央)

マサチューセッツ大学アマースト校のジャヤティ・ゴッシュ経済学教授は、世界情勢が急速に変化する中でも、この書籍の主張は引き続き重要だと強調しました。現状ではより複雑な開発戦略が求められており、不平等は中心的な課題であり、技術革新によって富と権力の集中がいっそう進んでいることから、積極的な政策介入がなければその恩恵は広く共有されないと主張。特に介護など社会的に重要な分野では、市場メカニズムだけでは必要とされる種類の雇用を生み出すことはできず、こうした分野では引き続き公共サービスの提供が不可欠だと強調しました。その一方で、不安定な時期は構造変革のチャンスを生み出し得るとも指摘し、政府がより積極的かつ創造的な政策アプローチを採用すれば、それが可能になると述べました。

オックスフォード大学オックスフォード・マーティン・スクールのキャメロン・ヘップバーン教授は、アフリカの人口構成における若年層の厚さに着目し、楽観的見解を示しました。中央値年齢が約19歳であることは、活力、移動性、そして学習能力の高さを表しているとし、自動化、資本集約型製造業、AIの影響といった課題を認めつつも、打つ手がないわけではないとし、大規模なインフラ需要、サービス業、観光、介護、スタートアップ、イノベーションといった分野で雇用機会があるとしました。また、気候変動、生物多様性の喪失、汚染といった問題を抱える世界経済における大規模な構造変革の必要性も訴え、グリーントランジションは本質的に労働集約的であることから、アフリカには再生可能エネルギーと重要鉱物資源において優位性があることを強調しました。そして、技能、職業、雇用需要の間で効果的な調整が行われれば、希望は十分にあると結論づけました。

IPDとJICA緒方研究所の新たな共同研究プロジェクトが始動

書籍ローンチに先立つ2026年3月18日、IPDとJICA緒方研究所は、タスクフォース会議をフランス・パリにて開催し、新たな共同研究プロジェクト「公正なグリーントランジションによる人間の安全保障の強化と成長・開発の促進 (コロンビア大学政策対話イニシアチブとの第6次共同研究) 」を立ち上げました。第6次となるこの共同研究イニシアチブは、アフリカをはじめとする開発途上国で環境の持続可能性を高めながら生活水準を向上させるため、グリーントランジションを推進する政策の特定を目的としています。当日は各分野の第一線の識者たちが集まり、議論が行われました。

写真:研究成果を発表した小早川徹客員研究員(左端)とテクレハイマノト・ソロモン・ハディス研究員(左から2人目)

研究成果を発表した小早川徹客員研究員(左端)とテクレハイマノト・ソロモン・ハディス研究員(左から2人目)

「Case Studies of African Green Transition」と題したセッションでは、JICA緒方研究所の原田主席研究員、テクレハイマノト・ソロモン・ハディス 研究員、小早川徹 客員研究員(日本大学教授)が研究成果を発表しました。原田主席研究員とソロモン研究員は、エチオピアが2024年にガソリン車の輸入を禁止する世界初の国となり、電気自動車の普及を急速に推進していることを紹介しつつ、長期的な成功は財政的制約下での政策の一貫性と制度的能力の強化にかかっていると指摘しました。小早川客員研究員は、高齢化と脱炭素化は相反する目標ではないと主張。都市計画や産業政策を通じて、高齢化に対応した都市づくりの取り組みと気候変動政策と連携させることで、両方の課題に同時に取り組みながら、持続可能でインクルーシブな都市開発を目指せると述べました。

最後にスティグリッツ教授は、構造転換はグリーントランジションを中心に再構築されるべきであり、市場メカニズムを超えた協調的な政治経済の枠組みが必要だと強く主張しました。グリーンテクノロジーはアフリカにリープフロッグ(飛躍的発展)の機会をもたらす一方で、その実現には、世界からの大規模な財政支援が必要だとも述べました。

書籍ローンチイベントの動画は、以下のリンクからご覧いただけます(IPD YouTube チャンネル)。

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