保健医療

JICAの事例紹介

ガーナEMBRACE実施研究

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近年、開発途上国における母子の死亡率低減は、様々な国際的取り組みを通じ、大きな成果を遂げています。その一方で、サブサハラ・アフリカやアジアの一部の国では妊産婦死亡と乳幼児死亡の十分な改善が見られず、国内の進捗でも、都市と農村間で不均衡があります。

このような背景のもと日本政府は2010年9月に「国際保健政策2011-2015」を発表し、「国際保健における我が国の貢献」を外交戦略の一部として位置づけ、世界の母子保健の現状を改善し、MDGsの目標達成に貢献するための支援モデルとして、EMBRACEモデル(Ensure Mothers and Babies'Regular Access to Care)を提示しました。

本モデルは産前から産後まで切れ目なく適切な治療やサービスを行うことを推奨しており、JICAは、本モデルを具現化して母子継続ケアを達成するための有効なパッケージ(活動)の開発及び科学的根拠の構築を目的として、国内研究機関とガーナ国側研究者による合同研究チームを構成し、本モデルの実施研究をガーナで開始しました。

ヨルダン 南部女性の健康とエンパワメントの統合プロジェクト

地域住民のリプロダクティブヘルスへの意識向上に取り組む

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村落保健指導員に対する血圧測定の指導

JICAは、保守的なイスラム社会で暮らす女性が夫とも相談しながら子どもの数を決めることが可能となるよう、「女性のエンパワメント」を通じた家族計画を推進しています。

男性や宗教指導者も巻き込んだ啓発活動

伝統社会が息づくヨルダン南部は、全国平均を上回る出生率や避妊実行率の低さなど、女性のリプロダクティブヘルス(RH)に関わる課題を抱えていました。

JICAは1997年から同分野への協力を始め、2006年に開始した本協力では対象地域を4県の76村落に拡大し、RHサービス向上と家族計画の受容促進に重点を置いて取り組みました。村落診療所の整備や地域で活動する保健指導員などの人材育成を行い、男性や宗教指導者を巻き込んだ啓発活動も展開しました。先行した協力も合わせ、保健指導員が行った女性に対する家庭訪問は、延べ1万2,897件に上りました。

その結果、南部4県では避妊実行率が44.0%(2007年)から50.4%(2011年)に有意に上昇。長年の協力成果を踏まえた政策提言にも結び付け、村のボランティアとして始めた保健指導員は政府によって正規の職種として認められるに至りました。

協力開始当初から中心的な役割を果たしてきた佐藤都喜子JICA国際協力専門員の貢献は、2013年9月の国連総会における安倍首相の演説でも取り上げられ、女性に裨益する開発協力の好事例として全世界に向けて紹介されています。

病院カイゼン「5S-KAIZEN-TQMによる保健医療サービスの質向上」

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質の高い保健医療サービスの確保は、今日の途上国の保健システムが直面している最も重要な課題のひとつです。日本が積極的に推進している「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」は、すべての人々が経済的な困難を伴うことなく保健医療サービスを享受できることを目指していますが、サービスのカバレッジ拡大にはサービスの質が伴わなければなりません。UHC実現のためには、高額な医療費負担による家計破綻を防ぐための医療保障制度の整備や医療施設や医薬品への物理的アクセスの改善等の他、サービスの質向上に関する取り組みが不可欠なのです。

日本の産業界より発展した品質管理手法である5S、KAIZEN、TQM(Total Quality Management)は、このサービスの質向上を達成するための有効な手段の一つです。JICAは、これらのアプローチを組み合わせて病院に導入してサービスの質改善に結びつけたスリランカの事例を分析し、院長等のリーダーシップの下、5Sによる職場環境の改善を導入として、段階的により複雑な問題解決に現場主導で取り組んでいく実践的なアプローチ、すなわち5S-KAIZEN-TQMアプローチを取り纏めました。そして、2007年から実施されたアジア・アフリカ知識共創プログラム(通称「きれいな病院プログラム」)において、5S-KAIZEN-TQMアプローチをアフリカ15か国に普及しました。その後、技術協力プロジェクト等により他国にも展開し、2015年時点ではアフリカ、アジアを含む20か国の少なくとも400施設で5S-KAIZEN-TQM活動が実施されています。

その結果、5S-KAIZEN-TQMアプローチが、資源制約下における医療施設の組織の改善や、病院職員の態度に変容をもたらし、サービスの質を重視する組織文化の醸成に役立つこと、さらにその結果として、病院環境の改善や患者待ち時間の削減、患者へのケアの改善や在庫管理・財務面等の病院のパフォーマンスに正のインパクトを与えることが確認されています。これらの結果に基づき、JICAでは今後も同アプローチを積極的に技術協力プロジェクトへ組み込むことを通して、保健医療サービスの質向上に取り組む予定です。

ミャンマー 保健分野の包括的協力

主要感染症対策と、基礎保健スタッフ強化を柱に

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蚊帳の配布

政情不安が続いていたミャンマー連邦共和国は、長らく世界の二国間援助機関が支援できない状況でしたが、JICAは人間の安全保障の観点から、保健分野や教育分野など特定の人道支援分野で継続的な支援を行ってきました。

保健分野では、技術協力プロジェクトとして、2005年から「主要感染症対策プロジェクト」、2009年から「基礎保健スタッフ強化プロジェクト」を展開しています。

エイズ、結核、マラリアの感染を防ぎ、治療を促進する

ミャンマーでは、3疾病(HIV/エイズ、結核、マラリア)が患者数、死亡数の上位を占め、国民にとって大きな脅威となっており、国家保健計画では、エイズ・結核・マラリア対策を最優先課題としています。こうした状況を受け、JICAは2005年から「主要感染症対策プロジェクト」を展開しました。

HIV/エイズ対策では、国家エイズ対策プログラムを強化するため、献血者選択システムの強化、HIV検査の強化、スタッフの能力強化を行いました。その結果、全国の献血者のH I V 感染率は、2005年の0.7%から2008年には0.4%まで減少、7つの基幹病院における同感染率は平均1.27%から2010年には平均0.26%まで減少しました。

結核対策では、国家結核対策プログラムを強化するため、ヤンゴンとマンダレーの2管区をプロジェクト対象地域として、結核検査業務の改善、官民連携の促進、啓発活動の促進を行いました。この結果、患者発見率は2006年にヤンゴン、マンダレーで各70%、65%であったものが、2009年には82%、67%に、治癒率に関しては、2006年に同78%、75%だったものが、2010年には86%、83%に改善しました。

また、マラリア対策では、東西バゴー管区の16タウンシップ(延長フェーズからはマグウェイ管区、およびラカイン州が追加)で、コミュニティベースマラリア対策プログラムを導入し、他地域への拡大適用を想定したパッケージ開発を行い、国家マラリア対策プログラムを強化し、東西バゴー管区ではマラリア死亡数が2004年の106人から2010年には38人に、ラカイン州およびマグウェイ管区では2006〜2009年の平均死亡数146人、67人から2010年には57人、23人まで減少しました。

2012年3月から、各疾病対策プログラムのさらなる強化、プロジェクト活動の面的拡大、質の向上を図るため、フェーズ2がスタートしています。

JICAのミャンマー事務所の横森佳世企画調査員は、「JICAは現場に根付いた活動の実施とともに政府保健省に入り込み、直接的に技術的支援を行っている唯一の機関です。これまで培った政府や住民との信頼関係をもとに、フェーズ1を深化させ、ミャンマーの政情安定化に伴って支援に動き出した世界エイズ結核マラリア対策基金をはじめ国際援助機関やNGOとも連携・協調し、全国レベルでの対策を進めて、3大感染症の封じ込めや撲滅に貢献していきます」と語っています。

住民を守る基礎保健スタッフを育てる

ミャンマーでは、乳児死亡率が1,000出生当たり54(2009年)、5歳未満児死亡率が1,000出生あたり71(2009年)、妊産婦死亡率が100,000出生当たり240(2008年)と東南アジア平均(乳児死亡率45、5歳未満児死亡率59、妊産婦死亡率240)と比べても同程度か高い値を示しています(WHO「 World Health Statistics 2011」)。その原因のひとつが基礎保健サービスの最前線を担う基礎保健スタッフが業務過多、能力強化のための機会の不足などにより適切な保健医療サービスを提供できていないことです。

2009年5月から「基礎保健スタッフ強化プロジェクト」を開始し、保健省が設置した中央トレーニングチームへの研修と合わせ、州/管区、タウンシップ(市町村に相当)のトレーニングチームの能力強化を支援し、教授法、研修マネジメント手法、研修評価法など効果的に研修を行うシステム整備やツールの作成などを行い、基礎保健スタッフへの補完的継続研修が効率的・効果的に実施できるよう支援を行っています。

また、各タウンシップにて実施されている研修情報の収集・分析を行えるように、研修情報システムを導入し、研修計画の改善に向けた支援を行っています。

母子保健シリア「リプロダクティブヘルス強化プロジェクト」

保健ボランティアとして活躍する地域の人々と連携

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タルホザン村でのアウトリーチ保健活動の様子。

近年、シリアは近隣の中東諸国同様、保健分野において比較的良好な環境を築いてきています。しかし、国内の格差は大きく、農村部におけるリプロダクティブヘルス(RH)は低い水準にとどまっています。

この「リプロダクティブヘルス強化プロジェクト」は、農村部であるアレッポ県マンベジ郡において「質の高い母子保健・RHのサービスの利用が増加すること」を目的に、開発途上国の農村開発の経験を持った日本のコンサルタントチームを派遣して実施しました。本プロジェクトでは、派遣されていた青年海外協力隊員と連携して、保健ボランティアとして働く地域の人々を巻き込みながら、リプロダクティブヘルス・サービスを提供するヘルスセンターの機能強化、およびコミュニティでの健康教育活動を行いました。

健康教育活動では、妊産婦およびその家族に対し、安全な出産のための定期的な妊産婦健診の重要性が伝えられました。同国では、既婚女性が村の外に出るのに、夫の許可が必要となる場合もあることから、夫や夫の母親など妊産婦の家族に対しても健診の重要性を知ってもらう必要があったのです。また、夫婦が一緒になって家族計画の手段を決められるよう、家族計画の重要性やその手法、入手先に関する情報も伝えられました。これらの活動は、ヘルスセンタースタッフの協力のもと、地域保健ボランティアが中心となり、地元の団体や宗教指導者を巻き込んで行われました。

プロジェクトの終了時には、ヘルスセンターのサービスが改善されたことにより産前健診受診者の満足度(プロジェクト開始時41%→86%)、家族計画実行率(同26%→42%)が上がるといった成果が認められました。

感染症対策広域でのプロジェクト「中米シャ―ガス病対策支援」

グアテマラで中米初となる「外来種媒介虫による新規感染中断」を達成

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ホンジュラスの村で保健ボランティアとサシガメの生息調査を行う専門家。

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サシガメは、土壁やわらぶき屋根の家に生息する。

シャーガス病はサシガメと呼ばれる吸血性カメムシを媒介して感染する中南米特有の寄生虫症です。感染すると肝臓・脾臓・心臓などに不治の障害を起こし、死に至ることもあります。サシガメは土壁やわらぶき屋根に生息することから、そうした住居に住む貧困層がかかりやすいため「貧困層の病」と呼ばれています。JICAはこの病気にいち早く注目し、1990年代からグアテマラ国内でサシガメ生息調査を実施してきました。2000年から同国でのサシガメ対策支援を本格化するとともに、エルサルバドル、ホンジュラス、パナマ、ニカラグアと中米計5カ国に支援対象を拡大し、サシガメの駆除、人々への啓発を通じたサシガメ再発生の監視、さらに行政の機能強化を図るなど中米のシャーガス病対策において主導的な役割を担っています。

2008年11月、米州保健機関(PAHO)により、グアテマラで外来種サシガメによる新規感染の中断が認定されました。感染中断とは、新規感染者の発生がほぼゼロの状態を示す中間目標で、中米初となる快挙となりました。

また、JICAはより効果的な対策をめざし、シャーガス病に関する研究にも取り組んでいます。2012年6月には、プロジェクト専門家とカウンターパートによる研究の成果をとりまとめた論文が、世界的な医学雑誌である" American Journal of Tropical Medicine and Hygiene" に掲載されました(http://www.ajtmh.org/content/86/6/972.abstract)。

JICAでは、今後も人々の意識を高め、サシガメが発生しない環境を維持できる体制構築を重視し、最終目標となるシャーガス病のコントロールを目指しています。