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日本と中南米間の日系人の移動とネットワークに関する研究

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日本から中南米への移住の流れは19世紀末から始まり、第二次世界大戦期の中断後、戦後は1970年代まで続きました。そして、1980年代以降、今度は一度、中南米へと移住した人々やその子孫の日系二世、三世の人々が就労を目的に来日するようになりました。特に、1990年の入管法改正によって、日本人の子孫とされる日系三世までの定住ビザ発給の法的地位が定められると、来日者数は激増しました。このような日系人の来日の動きは日本から戦前・戦後に移住した人々やその子孫が「祖国」へと戻ってくるUターン現象として、「還流」と言われます。

その後、還流した人々の間で日本に定住する人々が多く出てくる一方で、再度、中南米へと「帰国」する人々の動きもみられます。このように、中南米の日系社会と日本との間には時代に伴って移動方向を交差させながら、歴史的に連続した人の移動がみられてきたと言えます。そして、このような状況は現在も進行中であり、それらの人々の未来について日本、中南米の両側で考えなければならない段階にきています。

本研究では、上記のような日系人が移動経験を経て構築してきた社会関係資本であるネットワークに着目し、調査を行っています。移住者のネットワークとは、地縁・血縁・友人関係をもとに出身地の社会と移住先の社会において、移住者同士、移住者とその地に残った者とを結びつける紐帯の集合体として考えられているものです。そのようなネットワークが移住者やその家族のアイデンティティ形成・保持や文化の伝搬・普及にも影響を与えていると仮定して研究を進めています。

移動する人々の主体性へと目を向ければ、各時代、各地域においてさまざまな生き方が垣間みえ、日本、中南米の両側においてかれらの生活経験やネットワークが蓄積され、役立ってきたことがわかります。既存研究では、就労のために来日する日系人について「デカセギ」という労働者のカテゴリーからかれらの滞日経験を分析し、経済状況や労働環境、教育問題などの社会的課題を議論する研究は多く存在してきました。一方、本研究の分析では、かれらの日系人としてのバックグラウンドや、かれら自身による滞日経験の意味付けを積極的にみていこうとします。

戦後復興、高度経済成長とともに移住者の送り出し国から、海外からの労働者の受け入れ国へと変貌した日本の社会は、日系人という人々の存在を前にして、自らの社会が生み出してきた複雑な人の移動の歴史に直面しているともいえます。本研究では、日系人の人々の多様な語りへと耳を傾け、戦前移民・戦後移住から還流、そして中南米への帰国の流れとそこでの経験に着目することから、戦後日本社会と中南米の日系社会との深いつながりを理解しようとします。

主に、ライフストーリー・インタビューと呼ばれるインタビュー手法による、ファミリーヒストリーやさまざまな世代の日系人の経験の聞き取り、移住者やその子孫が書き残してきた会報や邦字新聞などの資料の分析を通じて、日系人のアイデンティティや文化の変化を分析しています。また、日本や中南米で活躍する研究者とつながり、日系コミュニティとも連携しながら研究することを目指しています。

研究領域
開発協力戦略
研究期間
2021年09月03日 から 2025年03月31日
主査
長村 裕佳子
JICA緒方研究所所属の研究者
ガラシーノ・ファクンド
関連地域
  • #中南米
開発課題
  • #日本の開発協力

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