国際開発学会&人間の安全保障学会2019共催大会でJICA研究所の研究成果を発表

2019.11.28

2019年11月16、17日に、国際開発学会&人間の安全保障学会2019共催大会が東京大学駒場地区キャンパスで開催されました。JICA研究所からは大野泉研究所長をはじめ多くの研究員が参加し、研究成果を発表しました。

大野研究所長は、「SDGsサミット2019と今後の展望」セッションにパネリストとして登壇し、JICA研究所によるT20 Japan 2019の取り組みや「誰一人取り残さない」に焦点をあてたブルッキングス研究所との共同研究の成果を報告しました。茨城大学の野田真里准教授(座長)のモデレーションのもと、外務省国際協力局地球規模課題総括課の吉田綾課長、SDGs市民社会ネットワーク政策担当顧問の稲葉雅紀氏、成蹊大学の廣野良吉名誉教授とともに、2030年まで残り10年のSDGsの展開に向けた課題や、新時代における人間の安全保障の取り組みの意義を含めて議論しました。

「SDGsサミット2019と今後の展望」セッションにパネリストとして登壇したJICA研究所の大野泉研究所長(前列左)

また、研究領域ごとの研究員の発表内容は以下の通りです。

経済成長と貧困削減領域

浅岡浩章主任研究員と山田英嗣研究員は、神戸大学国際協力研究科と共同で、企画セッション「マイクロデータを用いたインフラ事業の実証分析」を開催しました。浅岡主任研究員はミャンマー・マンダレー市での無償資金協力による上水道整備事業において、住民の水道への接続意思やボトル水の利用状況の分析について、また、山田研究員はインド・デリー市のメトロ整備事業による女性の就業への影響に関する分析について発表し、インフラ事業の多様な効果や影響を示しました。

人間開発領域

JICA研究所の研究結果をもとに発刊された書籍『日本の国際教育協力—歴史と展望』の議論に基づき、萱島信子JICA理事、黒田一雄客員研究員(早稲田大学教授)、広島大学の吉田和浩教授が企画セッションに参加しました。これまでの日本の国際教育協力政策と実施の歴史を振り返りながら、SDGsに代表されるグローバルガバナンスとの関わり、日本の貢献と役割について発表しました。コメンテーターの京都大学大学院の高橋基樹教授と峯陽一客員研究員(同志社大学教授)から、国際協力の政策理念と現場における実践は対立するのかまたは共存するのかという点や、開発途上国のニーズを重視する日本のアプローチとグローバルガバナンスをどう捉えるかなど、議論のための重要な問題提起が行われました。

書籍『日本の国際教育協力—歴史と展望』に基づいて日本の国際教育協力について議論

平和と開発領域

武藤亜子主任研究員とサライヴァ・ルイ研究員は、JICA研究所の研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討:状況適応型の平和構築とは何か」の研究成果として、論文「Assessing Context-Specific Peacebuilding Approaches in Contemporary Complex, Protracted and Recurring Armed Conflicts: From Mediation to Reconstruction in Syria and From Direct Dialogue to Trust Building in Mozambique」を紹介。シリアの事例では、人道、開発、平和を同時かつ連携して実践する際の国家主権と実効支配に関する課題を取り上げ、モザンビークの事例では、現行の武装解除・動員解除・再統合(DDR)プログラムの改変および近年の平和プロセス協議における国家のオーナーシップについて分析を行いました。

また、武藤亜子主任研究員と石川幸子JICA国際協力専門員は、立命館大学の石原直紀特任教授を座長とするラウンドテーブル「21世紀の『人間の安全保障の課題—東南アジアを事例として』」に、同大学の本名純教授、足立研幾教授、京都産業大学のクロス京子准教授とともに登壇。武藤主任研究員はJICA研究所の「東アジア人間の安全保障の実践」研究全体の成果を、石川専門員は紛争地フィリピン・ミンダナオへの日本の支援事例を報告しました。

地球環境領域

安達一郎上席研究員は、ASEAN諸国における環境政策課題の研究事例として、2016年にベトナムで発生した「魚大量死事件」を取り上げ、環境社会学およびレジーム論を援用して分析を行った研究を報告しました。環境問題に対する社会的対応や政策作成過程をレジーム論から捉えるのは有効な分析方法とのコメントや、他国との比較分析を進めることでより明確になるとの指摘が挙がり、活発な議論が交わされました。

開発協力戦略領域

「移民・難民の教育」セッションでは、金子聖子リサーチオフィサーが新興国マレーシアにおける留学生の移民への移行に関して発表しました。研究プロジェクト「日本の産業開発と開発協力の経験に関する研究:翻訳的適応プロセスの分析」の一環で、新興国ながら後発国の人材育成に力を入れるマレーシアの事例を、「国際移民システム」を枠組みとして分析する構想について述べました。ジェンダー別の分析や、枠組みの中で特に焦点を当てる文脈に関する質問・コメントがあり、本学会のテーマ「難民・移民そして教育・就労」に即したセッションに対する関心の高さが伺えました。

「ODA歴史研究へのアプローチ —『日本の開発協力の歴史』研究進捗報告第三弾—」セッションでは、峯陽一客員研究員(同志社大学教授)がODAの口述史(オーラル・ヒストリー)という視点から、高橋基樹教授(京都大学)は思想史という切り口から、それぞれ研究プロジェクトの進捗を報告しました。モデレーターは佐藤仁客員研究員(東京大学)が務め、「日本の開発協力の歴史」バックグラウンドペーパーを執筆した大山貴稔講師(九州工業大学)がコメンテーターとして討論の口火を切り、フロアとの議論を深めました。

企画セッション「開発協力において青年海外協力隊は何をもたらしたか」では、岡部恭宜客員研究員(東北大学教授)と大貫真友子研究員が研究プロジェクト「国際ボランティアが途上国にもたらす変化とグローバル市民社会の形成」の研究成果として、「ソーシャル・キャピタルの形成と青年海外協力隊の役割:結束型、橋渡し型、連結型」を発表。意識調査データの計量分析の結果、結束型(現地の同僚とのつながり)がさまざまな活動成果をもたらすこと、橋渡し型(現地の日本人・外国人・現地人・他の隊員とのつながり)もいくつかの成果を生み出すこと、そしてJICA事務所の支援(連結型)は隊員の満足度を高めることを明らかにしました。

JICA研究所の岡部恭宜客員研究員と大貫真友子研究員が青年海外協力隊の役割などについて発表

また、企画セッション「紛争影響国における復興支援事業の長期的モニタリング」では、大貫真友子研究員が「暴力的集団間紛争経験者による集団接触の融和効果検証」の研究成果として、「定点観測・ルワンダ:受益者インタビューの分析(中間報告)」を発表。障害を持つ元戦闘員と一般障害者を対象とした技能訓練の元受益者(52人)にJICAが実施したインタビューの分析結果や、技能訓練を通じて一般障害者の自尊心が向上するライフヒストリーの文脈、元戦闘員の出自によって動員と除隊の動機および兵士活動のとらえ方が違うことを質的に明らかにしました。

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ