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国際開発学会第31回全国大会でJICA緒方貞子平和開発研究所の研究成果を発表

2021.01.15

2020年12月5、6日の2日間、「今、変化する時:包摂的な社会に向けたイノベーション」をテーマに掲げた国際開発学会第31回全国大会がオンラインで開催され、JICA緒方貞子平和開発研究所の研究員らが研究成果を発表しました。各領域の発表内容は以下の通りです。

平和構築と人道支援領域

ラウンドテーブル「Context-Specific Peacemaking Amidst Complexities(複雑さの中の文脈に応じた平和創造)」では、状況に適応した調停をテーマとして、座長を務めた谷口美代子JICA国際協力専門員がフィリピン南部、武藤亜子上席研究員がシリア、ルイ・サライヴァ研究員がモザンビーク、青山学院大学の田中(坂部)有佳子助教が東ティモールの事例について、それぞれ報告しました。上智大学の東大作教授と日本大学の窪田悠一准教授が討議者となり、第三者だけでなく現地のアクターが複雑かつ流動的な状況に適応しながら関与していく有用性について、活発な議論が行われました。

人間開発領域

萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザーは、黒田一雄客員研究員(早稲田大学教授)がコメンテーターを務める「教育とコミュニティ」のセッションで、研究プロジェクト「日本の国際教育協力」の成果に基づき、「日本の高等教育協力—途上国に大学を作り、育てる」をテーマに口頭発表。1960年代から現在までの高等教育機関設立・育成事業の歴史的変遷を、その背景とともに説明し、新たな協力の在り方が求められていると述べました。日本の大学や政府との連携、新興国や開発途上国と協働した高等教育協力の今後の展望と、それを踏まえたODAの役割などについて、参加者との活発な議論が行われました。

マレーシア日本国際工科院(MJIIT)で研究にあたる学生たち(写真:JICA/安田菜津紀/Dialogue for People)

辻本温史リサーチ・オフィサーは、「紛争影響国において職業技術教育訓練(TVET)が果たす役割—ルワンダにおける元戦闘員の社会復帰に対する日本の支援事例」をテーマに、ポスター発表(音声付スライド)を行いました。国際的な議論のレビューと日本の支援事例の紹介を通して、紛争影響国におけるTVET支援をどう捉えるか、また、課題についても議論しました。質疑応答はオンラインでコメントをつける形で行われ、通常の支援と平和構築支援の違いといった議論がなされました。

また、書籍『日本の国際教育協力:歴史と展望』が国際開発学会特別賞を受賞したことが総会で発表され、同書籍の編者である萱島シニア・リサーチ・アドバイザーと黒田客員研究員による受賞に対するビデオメッセージが放映されました。

経済成長と貧困削減領域

山田英嗣研究員がコメンテーターを務めた企画セッション「途上国におけるミクロ実証分析:家計調査データを用いた研究事例」では、浅岡浩章客員研究員が「途上国の都市給水施設整備に伴う水利用の変化に関する実証分析—ミャンマーにおける都市給水事業を事例として—」と題して発表。ミャンマー・マンダレー市での上水道整備事業を対象に、上水道サービス開始に伴う都市住民の水利用パターンや厚生水準の変化を独自調査データにより検証し、都市給水事業の意義についての考察を紹介しました。

地球環境領域

安達一郎上席研究員は、研究プロジェクト「SDGs下における環境/気候変動制度・政策の発展に向けての実証研究」における中間成果報告として、同プロジェクトに参画している研究者と共同で企画セッション「SDGsレジーム下における新興国の環境・気候変動政策への取り組みとその課題」を開催。環境制度・政策に関する途上国の課題、気候変動における国や都市の取り組み、昨今の廃棄物に関する取り組みの状況などの報告が行われました。コメンテーターからの質問に答える形で活発な質疑応答が行われ、2050年までのカーボンニュートラルといった気候変動にかかる最近の大きな動きに向けた政策的イノベーションの必要性が議論されるなど、今後の成果発信に向けた貴重なセッションとなりました。

開発協力戦略領域

「紛争・平和」セッションでは、研究プロジェクト「スポーツと平和・開発に関する研究」に基づき、静岡県立大学の古川光明教授がスポーツを通じた平和と結束の可能性をテーマに発表。南スーダンの全国スポーツ大会である「国民結束の日」に参加した選手たちの社会関係資本にかかる紛争認識の分析や、「国民結束の日」を通じた彼らの認識や行動の変容を検証した結果が報告されました。また、南スーダンのスポーツの社会文化的コンテキストでの位置づけやスポーツ以外の方策、政治アクターとの関与の促進の可能性など、重要な問題提起が行われました。

企画セッション「途上国援助における日本の産業開発協力の経験と今後の展望—日本の知的役割を考える—」では、大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー(政策研究大学院大学教授)を座長に、山口大学の天津邦明教授、山田実上席研究員、ILOの森純一専門家(元JICA緒方研究所研究員)、神公明JICA専任参事が、研究プロジェクト「日本の産業開発と開発協力の経験に関する研究:翻訳的適応プロセスの分析」の中間成果を発表しました。産業政策、産業人材育成、生産性向上の各分野で、途上国に対する日本の産業開発協力が、外来の知識・技術を自国の文脈に合わせて適用し、内生化する「翻訳的適応」をいかに促したかを分析していることを紹介し、コメンテーターを務めた拓殖大学の柳原透客員教授や関西大学の後藤健太教授、参加者との活発な意見交換が行われました。「産業開発分野での支援を行う際には相手国の事情に合わせて到達点やプロセスを調整することが重要」「グローバル・バリュー・チェーンの観点から翻訳的適応の実践方法を論ずるとすれば、国内のみならず海外の企業との関係も念頭に置いて産業人材育成を考える必要がある」といった論点について議論が深められました。

スポーツを通じた平和促進を目指して開催された南スーダンの全国スポーツ大会「国民結束の日」(写真:JICA/久野真一)

ハノイ工業大学で産業人材の育成を支援(写真:JICA/永武ひかる)

志賀裕朗上席研究員はセッション「ODAと政策環境」に参加し、「ロシア援助は『ならず者援助』か?—ロシア援助の実態・特異性とその理由—」と題して発表。ロシアは国際政治上の考慮によって、西側先進国のドナーコミュニティーにも、中国やインドが主導する南南協力ドナー陣営にも属さない特異な立ち位置に立っていると主張しました。これに対してコメンテーターを務めた朝日新聞社の藤谷健氏は、あまり知られていないロシア援助に貴重なデータを活用しながら光を当てた有意義な研究であると評価した上で、「冷戦後の国際社会におけるロシアの立場のゆらぎがロシアの援助政策の変遷に影響を与えていることが分かる」とコメントしました。

企画セッション「JASIDブックトーク」では、研究プロジェクト「青年海外協力隊の学際的研究」の成果であり、2019年度国際開発学会賞(特別賞)を受賞した書籍『青年海外協力隊は何をもたらしたか—開発協力とグローバル人材育成50年の成果』を紹介しました。岡部恭宜客員研究員(東北大学教授)は本書への評価について、4つの書評を取り上げて発表。また、同書の第8章を執筆した筑波大学の関根久雄教授は、見えにくいと言われる青年海外協力隊員の活動の成果について、隊員の心的変化(落胆)に言及し、隊員自身の成長、隊員との関わりが現地の人々の記憶として残る点を示しました。

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