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<第二十二回>実行可能な事業計画を策定するためのポイントとは?

途上国ビジネスの世界にようこそ。魅力的な市場が広がり、活力のある人材が溢れる途上国。JICAではビジネスTipsコラムと題しこれまで21回分のコラムを配信、掲載してきました。最終回となる第22回では、「実行可能な事業計画を策定するためのポイントとは?」について解説していきます。

1. 実行可能な事業計画書とは

企業や事業を運営する際の具体的な計画や戦略を文書化したものが事業計画書です。この事業計画書をなぜ作るのかについて考えてみると、企業によってその目的は様々であり異なるものですが、多くの企業では、事業の方向性の明確化、資金の調達・融資を受ける説明資料としての利用、内部コミュニケーション(社内説得、目的共有、意思統一等)の活性化、リスク管理等が目的とされています。一般的に事業計画書に示される内容は、事業概要、事業内容、市場分析、事業展開計画、資金計画、組織計画、リスク分析、収支計画、将来的なビジョン、そしてビジネス化に向けた具体的な活動計画等多岐にわたります。作成に当たって重要な点は「実行可能な」事業計画を策定することです。
「実行可能な」事業計画とは、夢や希望、理想論としてバラ色の世界ではなく、実際に取り組むことができる現実的な計画を組み込んだ事業計画書であり、ドラッカー風に言うと、これを読んだ社員は、自身の目標と事業の目標を同化させ、やる気を起こすものである必要があります。また、これを読んだ出資者や融資者にとって事業計画書は、事業達成に向けて資金援助を行う経済的・社会的価値があるのか、否かを判断する資料であり、かつ、投下資金の回収可能性に確信を持たせるものである必要があります。加えて、これを読んだステークホルダーに対しては、その企業(事業)の社会的な意義に共感を与えるものである必要があります。実行可能な事業計画には、以下のような要素を含みます。

  • 現実的な目標設定
  • データに基づいた計画
  • 明確な行動計画
  • 必要な経営リソース
  • 重要リスクとその対策
  • 収支計画や資金調達計画等の財務データ
  • 想定していなかった時のプランB

事業計画書は新規事業の立ち上げ時、既存事業の拡大や転換を図る時、銀行や投資家から融資や資金を受ける時、経営方針を明確化する時などに使われます。こうした重要な意思決定の際に用いられるため、見た目を良く見せた「絵にかいた餅」状態の事業計画書を作ることに意味はなく、むしろ誤った前提に立った判断ミスを引き起こしかねません。
なお、データにおいても実行可能な事業計画書を作成した企業ほど、ビジネスが進展していることがわかっています。JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)を活用した企業に対して行った事後モニタリング調査では、売上を拡大している企業ほど、実行可能な収支計画を策定していました。また、JICA Biz終了時においてその後のアクションプランが明確であった企業ほど、売上が拡大している傾向にありました。この結果は企業に対して主観を聞いたものですが、事業計画書を作成した企業担当者の主観においてであっても、実行可能な事業計画書を作成していたと考えることができれば、その後のビジネスを進展させている傾向がありました。

2. 実行可能な事業計画書を策定するためのポイント

では、実行可能な事業計画書を策定するためにはどのような点に留意すればいいでしょうか。この問いに応えるべく、JICA民間連携事業部では、10年を超える中小企業・SDGsビジネス支援事業の経験から、開発途上国でのビジネス化に向けた押さえるべき12のポイント(「SDGsビジネスのポイント」) をまとめています。この12のポイントは、「組織体制」、「社外パートナー」、「ビジネス環境」、「製品・技術」、「ビジネス計画」別に累計し、それぞれ以下の通りになっています。

【組織体制】
 1. 海外展開に能動的に取り組む組織体制が構築されている。
 2. 海外展開を行うための経営リソースがある。
【社外パートナー】
 3. 信頼できる現地の社外パートナーを確保している。
 4. 自社・自身の弱みを補完する専門家を活用している。
【ビジネス環境】
 5. 提案製品・技術が規制の対象になっていない。
 6. 提案製品・技術が進出国の社会環境に適している。
 7. 企業がバリュープロポジション(顧客が自社の製品・サービスを選ぶ理由)を把握している。
【製品技術】
 8. 提案製品・技術には販売実績がある。
 9. 現地のニーズに合わせて、マーケティング要素を現地化できている。
 10. 提案製品・技術に顧客・市場が認めた競争力がある。
 11. 製品・技術の知的財産や盗難等の対策が講じられている。
【ビジネス計画】
 12. 実行可能な事業計画が策定され、ビジネス化に向けたアクションプランが整理されている。


紙面の都合上、本コラムにおいて12のポイントの詳細な解説は割愛をしたいと思いますが、各ポイントの詳細は(「SDGsビジネスのポイント」) で確認できます。12のポイントを押さえた事業計画書の策定は、実行可能な事業計画書の策定と同義です。これをお読み頂くことで、なぜ開発途上国のビジネスの成功において、これらのポイントを押さえたビジネス展開が重要であるかについてご理解頂けると思います。なお、12のポイントにおける個別論点に関しては、本連載コラムで別途解説記事を掲載しています。下表にて各ポイントとコラムの関係図を示していますので、個別の論点についてより詳しく知りたい方は、「SDGsビジネスのポイント」と併せてコラムもご覧いただければ幸いです。

SDGsビジネスの12のポイントと併せて本コラムの対応関係
分類 No 12のポイント コラム
組織体制 1 海外展開に能動的に取り組む組織体制が構築されている。 第1回:途上国ビジネスに必要なマインド
第14回:海外展開へ向けて構築すべき組織体制とは?
2 海外展開を行うための経営リソースがある。 第2回:途上国ビジネスでのお金との向き合い方
社外
パートナー
3 信頼できる現地の社外パートナーを確保している。 第9回:海外進出成功の鍵 “社外パートナー” とは?
4 自社・自身の弱みを補完する専門家を活用している。 第14回:海外展開へ向けて構築すべき組織体制とは?
ビジネス
環境
5 提案製品・技術が規制の対象になっていない。 第6回:進出国の「規制」について意識しておきたいポイントとは
6 提案製品・技術が進出国の社会環境に適している。 第8回:進出国の市場規模を把握するために気を付けるべきポイントとは?
第13回:途上国ビジネスにおけるSDGsの重要性
第16回:注意すべき進出国の社会環境とは?
7 企業がバリュープロポジション(顧客が自社の製品・サービスを選ぶ理由)を把握している。 第4回:真の価値、「バリュープロポジション」とは
製品技術 8 提案製品・技術には販売実績がある。 第3回:途上国ビジネス展開時の販売実績の必要性
9 現地のニーズに合わせて、マーケティング要素を現地化できている。 第5回:現地に根差したマーケティング戦略がなぜ必要なのか
第20回:進出国でのバリューチェーンを検討する際のポイントとは?
10 提案製品・技術に顧客・市場が認めた競争力がある。 第7回:進出国の適切な製品価格を図る“受容価格帯”とは?
第15回:進出国における競合他社を分析する際のポイントとは?
11 製品・技術の知的財産や盗難等の対策が講じられている。 第19回:海外進出時に検討すべき知的財産や盗難の対策とは?
ビジネス
計画
12 実現可能な事業計画が策定され、ビジネス化に向けたアクションプランが整理されている。 第10回:海外進出時におさえるべき収支計画のポイントとは?
第11回:JICA事業後を念頭においたアクションとは?
第12回:海外進出時におさえるべきビジネスモデルのポイントとは?
第21回:海外進出時に活用できる資金調達方法とは?
第22回(本コラム): 実行可能な事業計画を策定するためのポイントとは?

また、読者の中には、12のポイントのうち特に重要なポイントはどれか?と考える方もいるかもしれません。この問いに関しては、第17回18回目のコラムで扱っています。これらのコラムでは、定量データを用いてどのポイント(要因)に対して、いつ、どのように企業が働きかけることで、開発途上国でのビジネス展開の成功確度を高められるのかに関して考察しています。なお、定量調査の結果からも、ビジネスの成功への寄与度に大小はあるものの、12のポイントは全てにおいてビジネスの成功に正(プラス)の影響を与えていたことを確認しています。

3. まとめ

JICA Bizでは、ニーズ確認調査とビジネス化実証事業が用意されています。JICA Bizで獲得した現地人材や現地の機関、ビジネスパートナーとの関係を継続させることが重要です。JICA Biz実施中は先に述べた「開発途上国でのビジネス化に向けた押さえるべき12のポイント」を実践し、終了後に実行可能な事業計画が策定され、ビジネス化に向けたアクションプランが整理されていることが重要となります。繰り返しになりますが事業計画は、自社の社員、金融機関や投資家、企業を取り巻く各種ステークホルダーに対してのメッセージであり、自社の存立意義をアピールする重要なツールとなるものです。その作成には労力と時間を要するものでありますが、その策定までの悩み、ディスカッション、意思決定等といったプロセスを含んだ企業全体の創意・熱量の集結が事業計画策定の醍醐味といえるのではないでしょうか。


いかがでしたでしょうか?全22回のコラムにお付き合いいただき誠にありがとうございました。JICA Bizを長年にわたり事後的にモニタリングしてきた過程で気づいた事項や発見した事項を経営学のフレームワークに当てはめつつ、皆さんに気軽に読んでいただけることを念頭に毎回執筆させて頂きました。皆さまの海外展開の動機付けや参考事例となったのであれば筆者冥利に尽きます。