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【研究ピックアップ】開発のインパクトを“学術的に”測る意義とは?

2026.03.04

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)では、開発途上国が直⾯する課題に対して、政策志向の研究を進めています。その際、開発によるインパクトを“学術的”に測ることには、重要な意義があります。科学的手法に基づき、査読を経た学術論文から得られる知見は、研究者や事業実施者の主観や利害に左右されにくく、客観的なエビデンスとして信頼性が高いほか、再現性のある研究成果は、特定の地域や状況に限定されることなく、異なる文脈や地域にも応用できるからです。

開発インパクトを学術的に測る⼿法は多様ですが、⼤きくは「定量的研究(量的研究)」と「定性的研究(質的研究)」に分かれます。量的研究は数値データを統計的に分析し、他の場⾯でも適⽤できる⼀般化可能な結果を⽬指します。⼀方、質的研究は言葉や⾏動を通じて人々の経験を深く理解することで、複雑な現象を理解したり、数値データでは把握の難しい発⾒を得られたりする可能性があります。

また、こうした量的研究と質的研究の両者を組み合わせる「混合研究」は、それぞれの強みを生かす包括的なアプローチとして注⽬されています。両研究⼿法を統合する難しさや、時間とコストが増えるといった課題があるものの、開発インパクトをより全体的に理解できる可能性があります。

今回は、JICA緒方研究所の研究から⾒えてきた開発インパクトの事例の一部を紹介します。ぜひ⼿法の多様性にも注⽬しながら、ご⼀読ください。

【気候変動分野の研究】

【開発インパクトの測り方コラムシリーズ第1回】ケニアの農林業ファーマー・フィールド・スクール(FFS)への参加は、農家の気候変動影響へのレジリエンスを高めたか?

佐藤一朗 上席研究員が執筆した同コラムでは、JICAがケニア政府と協力して2016~2021年まで実施した「持続的森林管理のための能力開発プロジェクト 」にスポットを当て、その一環で行われたプログラム「農林業ファーマー・フィールド・スクール(Farmer Field School:FFS)」が、参加農家の気候変動影響へのレジリエンスにどのような効果をもたらしたのか、「傾向スコアマッチング」という統計的な方法を使った分析を紹介しています。

ニュース「佐藤上席研究員と成田客員研究員が気候変動下における都市洪水リスク分析結果をスリランカのステークホルダーと議論」

研究プロジェクト「都市洪水対策事業に関する気候変動適応効果の定量評価研究 」では、不確実な状況における意思決定支援手法の一つである「Robust Decision Making(RDM)Framework」を用いて、将来の洪水リスク増大が懸念されるスリランカのコロンボ都市圏の流域を対象に、雨水排水事業マスタープラン で提案された事業が気候変動適応策としてどのような効果があるか分析しています。

【教育分野の研究】

【開発インパクトの測り方コラムシリーズ第2回】大学教員の海外留学はその後の教員の学術活動や大学の国際化にどのような効果をもたらすか?

日上奈央子 リサーチ・オフィサーが執筆した同コラムでは、研究プロジェクト「途上国における海外留学のインパクトに関する実証研究-アセアンの主要大学の教員の海外留学経験をもとに- 」において、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ベトナムの主要な大学の大学教員の海外留学がその後の教員の学術活動や大学の国際化にどんな効果をもたらしたか紹介しています。質問紙調査などによる統計的データと、100人以上の留学経験者を対象にしたインタビュー調査による質的な情報を組み合わせて分析が行われました。

【萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザー インタビュー】高等教育の今をひもとき留学の意義を実証する

上記研究プロジェクトに取り組むJICA緒方研究所の萱島信子 シニア・リサーチ・アドバイザーに、開発途上国の教育を取り巻く状況の変遷を踏まえ、アセアンの大学教員への大規模な調査研究から得られた発見について聞きました。大学教員の留学が、教員のレベルアップや大学の国際的な教育研究活動に大きなインパクトを与えているほか、急速に変化しつつあるアセアンの留学の今の姿も浮かび上がってきたと語っています。

インパクト評価やエビデンス活用に関し、JICA緒方研究所の丸山隆央 主任研究員が執筆した3本のコラムシリーズを紹介します。

【丸山隆央主任研究員コラム】エビデンスを用いた事業の効果向上とスケールアップ~インドNGO「Pratham」から学ぶ~

教育開発分野において2000年代前半からインパクト評価を先進的に導入し、エビデンスをもとに事業の効果向上とスケールアップを図ってきた組織として、インドのNGOであるPratham を取り上げています。こうしたエビデンスを用いた「サーチ・学習・コミュニケーションサイクル」が、開発援助機関によるエビデンス活用の一つの在り方を示唆していると述べています。

【丸山隆央主任研究員コラム第2回】JICAの教育開発事業におけるデータ・エビデンス活用: エルサルバドルにおける教科書開発事業を事例として

2015年にエルサルバドルで開始されたJICAの算数・数学教科書開発事業(初中等教育算数・数学指導力向上プロジェクト: ESMATE )により開発された算数・数学の教科書の配布と、その普及のための介入策からなるパッケージが、子どもたちの算数・数学学習成果をどのように向上させたのか?ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)を実施し、そこで得られたエビデンスを事業にどのように活用したかを概観しています。

【丸山隆央主任研究員コラム第3回】マダガスカル「みんなの学校プロジェクト」における3件のインパクト評価とエビデンス活用

学校と地域住民の協働を通じて子どもたちの教育改善を図る「みんなの学校プロジェクト」では、現場の地域住民のさまざまな教育ニーズに対し、学校と地域住民の協働モデルと、研修などの介入パッケージの開発を行っています。同コラムでは、マダガスカルにおいて、2018~2022年にかけてプロジェクト活動の展開にあわせて行われた3件のインパクト評価と、そのエビデンス活用について紹介しています。

【保健分野の研究】

【開発インパクトの測り方コラムシリーズ第3回】若者が集まる「モバイルマネー店舗」は若年妊娠を防ぐ新しい社会モデルになりうるか?

駒澤牧子 客員研究員が執筆した同コラムでは、研究プロジェクト「ウガンダの若者の望まない妊娠に関する介入研究 」を取り上げています。携帯電話を使った送金などを仲介する「モバイルマネー店舗」を「新たな保健拠点」と位置づけ、来店した若者に対して、性と健康、避妊に関する分かりやすい情報提供とコンドームの配布といった若年妊娠率を下げるための試験的な取り組みが行われました。それによって集まったデータを「ロジスティック回帰分析」という手法を用いて分析し、介入の効果を客観的に検証しています。

【インフラ分野の研究】

【開発インパクトの測り方コラムシリーズ第4回】インフラ整備によりどのような開発インパクトが生まれるか?

インフラ整備によって人々の生活や行動がどのように変わるのか、その社会経済的影響の規模や持続性、そして効果の異質性(場所や人による違い)を正しく理解することは、開発計画を立てる上で重要です。山田英嗣 主任研究員が執筆した本コラムでは、特に地下鉄やBRT(Bus Rapid Transit)などの都市交通インフラに焦点を当て、最新の研究成果から得られた知見を紹介しています。

ニュース「Innovation in Infrastructure Impact: A Discussion Among Researchers From the World Bank, ADB and the JICA Ogata Research Institute」

エビデンスやデータ分析の活用に向けた研究者参加型アプローチとして、世界銀行の「開発インパクト・グループ」はLEADS(Learn, Adapt, and Scale)ワークショップを開催しています。東京で開催されたワークショップに先立ち、2026年1月26日、世界銀行、アジア開発銀行、JICAは、「Innovation in Infrastructure Impact」と題した共同研究会議を開催しました。(報告記事は英語です)

【今月の研究ピックアップ】開発途上国でのインフラ開発の効果とは?(2024年12月)

JICA緒方研究所では、JICAが実施しているインフラ整備事業を対象に、さまざまなデータを用いつつ、インフラ開発の社会的・経済的な効果の分析を進めています。また、開発途上国における財政面や環境面なども考慮に入れた、持続的なインフラ開発を可能にする要因や手法についても研究を進めています。こうしたインフラに関するさまざまな研究の一部をご紹介します。

【財政・金融分野の研究】

【田中智章JICA職員インタビュー】開発の現場と研究を行き来して研究成果を政策に生かす

学生時代に経済学を学んだバックグラウンドを生かし、さまざまな研究を進める田中智章職員に、開発の実務に携わりながら研究を続けることの意義やその情熱について聞きました。モンゴルでの研究では、全土の約3分の1にあたる村で、年金に関する説明資料を住民に配布して質問紙による調査分析を行ったことで、人々が年金に加入する際の障壁が何か、明らかになったことを紹介しています。

【相場大樹客員研究員インタビュー】自国通貨の利用と金融包摂の促進を通してカンボジアの金融セクターの発展を

自国通貨のリエルだけではなく、米ドルが使われているカンボジア。JICA緒方研究所で同国の金融セクターに関する研究プロジェクトに携わり続け、現在はJICA専門家としても活動する相場大樹 客員研究員に、研究による客観的なエビデンスから見えてきたカンボジアの金融セクターの課題や、誰もが金融サービスにアクセスできるようになることを目指し、研究成果をどう政策立案につなげていくか聞きました。

もっと詳しく知りたい方はこちら↓

【農業分野の研究】

【TICAD9に向けたアフリカ研究紹介シリーズ第1号】アフリカの発展を支える農業

JICA緒方研究所では、アフリカの農業開発や食料安全保障に関連したさまざまな研究を行っています。研究プロジェクト「サブサハラ・アフリカにおける米生産拡大の実証分析フェーズ3 」では、「アフリカ稲作振興のための共同体(Coalition for African Rice Development:CARD)」イニシアティブが、アフリカにおけるコメの生産性向上や貧困削減にどのように貢献したのか実証分析を行っています。また、研究プロジェクト「SHEPアプローチの小規模農家への効果に関する実証研究(SHEP研究) 」では、SHEP(市場志向型農業振興:Smallholder Horticulture Empowerment and Promotion)アプローチが小規模農家の生計向上に与えるインパクトを明らかにすることなどを目指し、実証経済学的アプローチや社会学的アプローチなどを用いて検証しています。

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